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1対2⑤
そんな思いをひっそり感じながらも、少しだけ寂しい気持ちにもなる。
はた目からはみんなと自然に話して、俺とも普通に接するイヅル。
それでいいんだ。そうじゃないと困る。
……だけど
いつだって余裕なイヅルをみてると不安になる。
ーーだって、俺たちはいつも1対2。
それが俺とイヅルの気持ちの差だから。
イヅルもまわりをみる余裕がなくなるくらい俺の事をみてくれたら、思ってくれたら……なんて。
そんな風に考えてしまう。
どうして次から次へと欲望は絶えないんだろう。
こうして、みんなと一緒に、イヅルと一緒に楽しめるだけで充分なのに。
ふぅとため息をつくと、隣のバレー部員の山田とかいうヤツに肩をたたかれる。
「ちょい、日向、お前自爆してんぞ」
「え!」
言われて画面に目を向けると、思い切り味方ゴールにシュートをうってるし。もーマジ最悪だ。
「あはは!」
「ヒナ頑張れよー」
楽しそうに爆笑するヤツらに混じって言葉をかけてくるイヅルの声。
小さくうるせぇよと毒づきながらも、必死に赤くなる顔をまわりから隠した。
テーブルのうえにドンとおかれた鍋にはもう白菜くらいしか残っていない。
パーティらしいオードブル料理もあっとゆうまに食い尽くして、満腹になった俺らは食休み中。
いつのまにやら俺の隣にはイヅルがいて。2人でソファを陣取り寄り掛かる。
「え、待ってお前、凄い腹になってるけど。食い過ぎじゃね?」
隣のスポーツマンらしくない少し膨らんだ腹を見ていると、それに気づいたイヅルが自分の腹を軽く叩くから、思わずプッと吹き出してしまった。
「ん?これくらい普通だろ。すぐに消化されるよ。つか、ヒナこそもっと食えよな」
「なんでよ」
ちらりと俺の方をみて、イヅルが呟く。
「んーなんか……抱き心地悪いじゃん」
「だっ!」
自分が軽くからかっていたはずなのに。イヅルの予想外の言葉に驚いた俺は、急いでキョロキョロと辺りを見渡した。
「だ、抱きごこちって……!い、いいわけねぇだろ!女子じゃあるまいし」
焦りながらも小声でまくし立てると、ははと笑う顔。
「そりゃそうだけどさ。ヒナは痩せすぎなんだよ。もうちょっと肉付きいい方が触り心地もいいじゃん」
「さ、触り心地って……」
イヅルの言葉に顔がどんどん熱くなる。
……なにいってんだよ
こんな場所で、平然とこんな事口にするなんて。
開いた口が塞がらないとはこの事だ。
「ヒナ」
面白そうにイヅルが顔を覗き込んでくる。
……ほら、やっぱり1対2だろ?
いつだって余裕なイヅルが悔しいんだ。
真っ赤な顔を俯いて隠しながらも、恨めしげにイヅルを見る。でもそんな時間もすぐに終わってしまう。
「イヅルくん!」
ソファの背もたれに寄り掛かるように、気さくに声をかけてきた女の子2人組。その顔には見覚えがない。俺の方にぺこりと会釈しながら、話をすすめてくる。
「ごめんね、急に話し掛けて。話の邪魔しちゃったかな?」
「……何?」
「話すのはじめてだよね?ちょっとあっちいって話さない?」
「あー……と」
イヅルが俺をちらりと見た。何か理由をつけて断ろうとしている感じがわかる。
「あのさ今……」
「いいじゃんイヅル!いってこいよ!俺の事は気にしなくていいし」
口をひらきかけたイヅルの言葉を遮る。
驚いたような顔をしたイヅルが一瞬の間のあと、顔をしかめた。
「ほんと?ごめんねー!イヅルくん行こ」
「あっちあっち!」
断りきれなくなったイヅルは、俺の方を恨めしそうにみてから3、4人の女子の輪の中へ入っていく。
その後ろ姿に、ふぅとため息。
さっきの仕返しのつもりだったけど、よく考えたらなんて馬鹿な事をしたんだと少し落ち込む。
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