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1対2⑥

 自分の気持ちとは裏腹に、余計な言葉が口から滑り出てしまう。本当はもっと素直になりたい。自分自身の感情なのに、思い通りにならない。  イヅルのまわりが騒がしくて、あまりにもアイツがまぶしい存在でありすぎて。  『俺だけのものでいてほしい』、だなんて。  ……そんなわがまま言えるわけがない。  少し考えこんだように静まる俺の目の前に、誰かが近づいてきた。顔をあげると満面の笑みをした南だった。  一緒にいた佐々木らと、いつのまにかサンタの衣裳なんか着てしまってるコイツは、どっからどうみても浮かれ過ぎだ。 「いやー!イヅルハルカはあいかわらずですな」 「南、なんだよその恰好」  呆れたように南をみると、はいっと渡された紙袋。 「パーティをもりあげるための小道具だ!ほらお前のも!」 「はぁー……聞いてねえよ。いいよ、俺は」 「んなこと言うなよ。日向だってこうゆうの好きじゃん?中学んときだって、文化祭ん時女装してただろ?だから、ホレ」  そういって紙袋からとりだされたのはサンタ衣裳の女版。ズボンじゃなくてスカートのヤツ。 「はぁ?!南!おま……っふざけんな!誰がこんなん着るっつったよ?!お前がきりゃあいいだろ!」 「俺よりお前のが似合いそうだし、中学ん時も好評だったじゃん!日向そうゆうの好きだろ?」  笑いながら衣裳をおしつける南と佐々木を呆れたように見つめる。 「いや、それたんなる罰ゲームだろ?ただ足が綺麗だって女子に言われただけだし。つか好きじゃねえし!」 「まあまあまあ、そう言わず」 「押し付けてくんなよ!着ねえよ!つか、女の子たくさんきてんだから、その子らににきてもらえばいいじゃん!」 「ばっか!それじゃ面白くねぇだろ!?」  なぁと顔を合わせるやつらをみてため息一つ。  ……そりゃ南のいってる事もわかるけどさぁ 「でもだからってなんで俺?」 「お前以外に、こうゆうの似合いそうで、んなコトをノリでやってくれそうなヤツ、他にいるか?」 「バレー部員はノリいいけど、みんな体格がよくてなぁ……」  呟いて二人は再度、俺をみて拝むように手を合わせてきた。 「だからたのむ日向!一緒に盛り上げようぜ!!」 「いーじゃん!こうゆうのお前得意じゃん!」 「うーー……」  回りをみるとだいぶ落ち着いた雰囲気。みんな数人ずつにわかれて、好き勝手に談笑している。  今ならたしかにウケるかもしれない。  ……でもなぁ……  なんだか俺は乗り気になれなかった。  そりゃ前まではよかったよ。  場を盛り上げるのに女装とかって。定番だけどやっぱみんな喜ぶし、そうゆうの嫌いじゃない。  ーーでも  ちらりと南の後ろに小さく写るイヅルと女子の姿を見る。  ……今はイヅルが気になるんだ。  女装が嫌だとか、そうゆうんじゃない。ただ、女子もいる前で男の俺が女装して、そうゆうの笑われて見られるのって……それがなんだか嫌なんだ。  イヅル以外には別に笑われてからかわれたって全然構わない。むしろネタにするし、盛り上げていけるけど。  アイツに馬鹿にしたように笑われたりしたら、傷つかずにいられる自信がないから。  そうかといって綺麗だとか可愛いとか言われるのも嫌だ。女装癖があるわけでもないし、そんなことを言われたいわけでもない。  ほんとに、俺はいったいどうしたいのか。  イヅルが絡むと何がしたいのか、何が正しいのかよくわからなくなる。 「イヅルハルカだってびっくりすると思うぜ」 「は?!」  突然言われた南の言葉にふいをつかれて、大きく反応してしまう。 「……何がだよ」 「だーかーらー!お前のそんな格好、中学違った奴等は見たことねぇじゃん?あん時だってめちゃくちゃ似合ってたからさ。予想外に似合い過ぎて女と見間違えたり……とか」 「……んなワケあるか」  ……びっくりした  知らないうちに、イヅルの名前でも口走ったのかと思った。  南の言葉に反論しながらも、イヅルの前だと恥ずかしいけど、確かにイヅルの反応には興味がある。  ……まあ、パーティの出し物みたいなものだし、イヅルなら馬鹿にしたりはしないだろう。単純にびっくりするかなっていう期待?  ………………。 「……南」 「お?なんだ?」  まだテーブルに残ったポッキーを3つ掴んで口にいれた南が振り向く。 「まあ、やってやってもいい」 「マジで?!んじゃ、あっちの部屋で着替えてこいよ!」  南から紙袋を受け取って、部屋に入る前に一言。 「その代わり奢りな。Lバーのダブルチーズ1週間分」 「ええーーっ!それは高すぎじゃねぇ!?」 「お前が部屋代と準備費と称して、参加費ちょっと多めに集めてるって聞いたぞ。そっから宜しく」 「えー!誰だよバラしたの!!」  南の声がツラツラと言い訳をし始めたのを聞きながら言い終わる前に扉を締めた。

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