70 / 120

1対2⑦

◇ 「さて、みなさん!宴もたけなわとなったところでゲームでもやりますか!」  南のおっさんみたいな言葉に散らばってたやつらが一斉に振り向いた。  あの衣裳に着替えて、サンタ南の後ろに隠れるように佐々木と一緒にひっそり立つ。  まだ俺たちの姿には誰も気付いていないようだ。  ……実際、着てみたらすげぇキツい パツパツってワケじゃねぇけど、やっぱ女用だ。ウエストの締まりとかがけっこうきてる。  しかも 「……おい南……なんでこんなミニなんだ」 「それしかなかったんだもーん」  隣の南にひっそり耳打ちすると、いとも簡単に返される。 「『もん』じゃねぇよ……!」 「まぁまぁいいじゃん日向!……それにしてもやっぱお前、めちゃくちゃ似合うな。モデルみてぇな女に見えるぜ!足もさ、そーしてりゃあわかんねぇし!みんな気付かねぇかもよ?」  再度、全身を見渡してだされた、南からの言葉にがっくりする。  どうしても不自然になるのを隠すために、仕方なく用意してあった黒いストッキングと、どうみても大きいサイズのロングブーツを履いたからな。 「……うれしかねぇよ」 「に比べて、佐々木ぃ〜〜」 「南ぃぃぃ」  おおおと、泣き真似をする佐々木は、お世辞にも似合ってるとは言い難い。というか、全てが不自然すぎる。 「いいんだ、俺は。せめて可愛くみえる仕草だけはしとくぜ」  そう言って、両手をあごの下においてぶりっ子ポーズを繰り出す佐々木は完全にイロモノ枠だ。  だいぶこちらに注目が集まったところで、南が大きな声をあげた。 「定番だけど、王様ゲームやりまーす!」  ぞろぞろと部屋の中心に自然とみんなが寄ってくる。 「南ー!!王様ゲーム古いぞー」 「いいじゃん!なんか楽しそう!」 「やんならやろうぜー」 「つか、なに佐々木!その格好!!」 「めっちゃ可愛いだろ?」 「すげえ!!びっくりするほど可愛くねえーー」  佐々木はすぐにからかわれ、楽しそうにみんなと笑いだす。  南もみんなに一応、ルールの説明なんかをし始めている。けれど、まだ誰も俺に反応がない。ちらっと視線は感じるけれど、誰から何を言われるわけでもない。 「んじゃ、まず箸をひいてもらって」  ハイ、と渡された箱を佐々木と一緒に回り、南がマジックで書いた番号のある箸を引いてもらう。  とりあえず佐々木が強烈すぎて、俺にはあまり視線がこない。からかわれるように反応されるのも嫌だけど、全く反応がないのはもっと嫌だ。 「うわ、一番だぁ……なんかイヤな予感がする」 「やった!王様!」  つーかみんな番号に夢中? 「わー!なんかドキドキするー」 「なに言われんのかなぁ」 「はい引いてくださーい」  あまりにも何も言われないから、もう逆にバレてくれ。なんか反応くれって思いで地声で喋ってみた。これでどうだと思いながら顔をあげる。 「あ、俺、7番。ラッキーセブンだ。なんかイイコトありそう。」  そこにちょうどイヅルがいた。  ほんのちょっとだけど、ちらっと俺と目線が合った気がしたんだけど、なんにも言わずに通りすぎたいく。  ……嘘だろ。イヅルなら声で、姿で、絶対気付くはずなのに。そのまま最後の一人も箸をひきおえて、ゲームが開始される。 「んじゃあ、5番が10番とポッキーゲーム!」 「えー!オヤジくさーい」 「5番俺!10番誰だー?」 「うわッ!10番俺だしッ」 「ギャー最悪ー!!」  イヅルはみんなのやりとりに顔をあげないで隣の奴と笑ってる。こっちなんか見ないし、なんか言いたいそぶりも見せない。  佐々木に関しては反応も上々だったのに、俺に、関しては完全になんの疑いもなくスルーされている。  ……なんだこれ。いくらなんでも気づくだろうよ、普通。  盛り上がる会場をよそにひとり盛り下がる。テンションもがた落ちだ。 「南ぃーー……」 「お、おかえり日向!つーか誰もお前に気付かねぇじゃん!すげぇな~」 「すげぇじゃねぇよ……つか、気づいててもイジりにくいくらい微妙なんじゃねえの、これ。大丈夫かよ……」 「いや違うって!正直全然お前だって言われなきゃわかんねえよ?日向がここまでハマるとは思ってなかったんだって!会田たちなんて『佐々木の隣の子の名前教えろよ。かわいい』っつって聞きにきたぜ?」 「会田に言われてもなぁ……」  視線を感じて、ちらりと正面をむくと、噂の会田とばっちり目が合う。咄嗟に照れたように視線を外す姿に苦笑い。 「……みんなよく見ろよな」  呆れたように目の前の水を飲み干す。

ともだちにシェアしよう!