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1対2⑧
なんだか一気にやる気を失って、壁に寄りかかる俺をよそにゲームはまだまだ続けられている。
王様ゲームなんて今どきどうかなと思ったりもしたけれど、なんだかんだでかなり盛り上がっている。たまに微妙にキツい命令もとびだして。
ギャーギャー悲鳴のような喜びのような様々な声がいきかっている。定番だけど、それなりに楽しめるもんだ。
ぼーーと輪の外からその光景を眺めていると、すっと差し出された箸。
「ホイ。日向も参加しろよ」
「えーー……俺はいいよ。なんかノらねぇし」
「んなことゆーなって!ほらっ!」
しぶしぶ箸に手をのばしてひくと、書かれていた数字は7番だった。
さっきイヅルが持ってた箸だ……なんて思ってしまう俺は、ほんと相当やばい。
箸を持ちながら仕方なく皆の輪の端っこに戻ると、南が急に声をはる。
「んじゃ次いきまーす。王様命令してやってー」
「俺王様!んじゃー……8番が、好きな数字選んで、そいつに……」
やる気のない俺はどーせ順番なんてまわってこないだろうとコップのウーロン茶に手をのばす。
「キス!」
その瞬間、思わずぶっと吹き出しそうになった。あちらこちらから飛び交う非難の嵐にも悪のりし始めてしまった王様は気にもせず笑っている。
……そりゃそーだろ。何考えてんだ。
「ヤダー」
「無理に決まってんだろ」
「セクハラ王様だ」
「増田最悪〜」
「ううう……じゃあ、手を繋ぐでどうだ!」
周りからの文句三昧で暴君増田も譲歩したようだ。まあ、当然だけれど。
そうはいってもこうゆう狙ったようなお題をだされると軽く緊張する空気が伝わってくる。
「……ここは重要だな」
「なんか緊張してきた」
「つーか、8番て誰よ?」
がやがやと騒ぎ出す輪の外で、俺には関係ないとばかりに、目の前にあったポッキーに手をのばし5本一緒に口にいれる。
……が
「ーーあ、俺8番だ」
騒ぎ出した皆よりワンテンポ遅れて立ち上がったそいつーーそれがイヅルだとわかった瞬間、ゴヘッと妙な咳がでて、口の中のポッキーが変なとこへ流れ込む。
一瞬シンとした部屋の中、明らかにさっきとは違う黄色い声か行き交った。
「え?イヅルくん、8番なの?」
「うそッ!マジで?!キャー!!」
「何番相手ってゆーかな?12番だったらどうしよう!」
「増田、やってくれる!」
……聞こえてるっつーの。
今まで『ヤダー』とか、『増田サイテー』とか言ってたの誰だよ。
ほぼ全員といってもいいくらい、そわそわしだす女子をみていると、またしてもじわじわと沸き上がってくる嫌な感情。
それを関係ない、気にしないとばかりに、俺は小さく首を降った。
「ちぇ、なんだよイヅルが8番かよ。まぁいいやー、何番相手か選べよ」
周りの女子の反応をみて、王様は少し不服そうだ。
「えー……そんなんやんの?」
「ゲームだろ?決まり決まり!」
だるそうに頭をかくイヅル。
「面倒くせ」
辺りを見渡して迷っている。みんながイヅルの言葉に注目してガヤガヤと騒がしい。
ーー微妙な緊張感
でも、俺はイヅルの口からその番号を聞くのがいやだった。
イヅルのいった番号を聞いて、キャーキャー盛り上がる女子の姿をみるのも。いや、それどころか、男だったとしてもイヅルと手をつないでイジられてるところを想像するだけでも。
それすらも嫌だ。そんな余裕すらないんだ。
他のやつらと楽しそうに笑うイヅルの姿をみるだけで。それだけで胸が苦しくなってしまう。
はぁ、とため息をついて、そっと輪の中からはずれて、トイレへ向かおうと歩きだす。
そんなので盛り上がるところなんて、見たくない。
「7番」
ふと、背後で聞こえた言葉。
ざわざわと皆の話声が聞こえる。
「7番?7番て誰?!」
「あーーあたしとかわってほしい……!」
「誰ーー?」
周りにはいないと判断した彼等の視線は、最終的に輪から少し離れた俺の後ろ姿に行き着くわけで。
立ち止まったまま動けなくなった俺に聞こえた南の声。
「お前、7番なんじゃねぇの?」
……ありえない
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