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1対2⑨

「え、あの人……誰?」 「つーか、なんかかっこいいねーー」  ざわざわと騒ぎ出すまわりの奴ら。次第に視線が俺に集まってくる。  ……やばい。この展開になってから目をひくのは非常に気まずい。  俯いたまま箸をもつ俺のもとに近づいてきたのは南。ぱっととりあげ、ニッと笑う。 「イヅルハルカーー!!7番、ココだ!」 「み、南っ!」  箸を片手に高くあげる南の姿に皆の視線が一斉に集まる。満足気な顔をする南の服の裾をひっぱり、こっそり耳打ち。 「ちょ……っ!ば、バカッ!なんでバラすんだよっ」 「だってお前、このままおわっちまったら、ただイタイだけだって嘆いてたじゃん!」 「だからって……!」 「いいじゃん!これでお前に注目集まったし、イヅルハルカだっていくらなんでもそんだけ至近距離に近づきゃお前に気付くだろ?」 「……っ」  こっそり言い合う俺たちに近寄る一つの影。 「ほらお姫様、いってこいよ!」 「わっ」  トンと南に背中を押されて、2、3歩前によろめくと目の前の大きな体に軽くぶつかった。 「……大丈夫かよ」 「ーーーーッ」  咄嗟に伸びてきたイヅルの手に肩を支えられて。 冷やかすような周りのざわつきに、なんだか妙な恥ずかしさで身動き一つできなくなる。 「平気?ハイ」 「……」  聞きながら、こちらに手を出してくるイヅル。その言葉に俯いたまま、そっと手を重ねる。そうして自然な流れでその手をイヅルに握られたとき、身体中が不自然に固まってしまった。  だって……おかしいんだ  今まで何度も手なんて触ってるし、もっと、それ以上のことだってしているのに。  今日はなんだかちがう。女装なんかしてるせいなのか、それともみんなの前でという緊張感なのか。  とにかく顔から火がでるほど熱いんだ。うまく言葉を発することもできない。  ……この状態で顔をあげたら、きっとバレてしまうだろう  どんなに隠していても、見破られないようにしていても、胸が焼けるほど熱くなるこの感情は、体中からあふれるばかりで……  キャー、とか羨ましい、とか、早く離れろとか……。いろいろな言葉が聞こえる中、イヅルがボソリと言った。 「なぁ……この子、すごく手が熱いし、調子悪いみたいだから帰ったほうがいいみたい」 「え?」  握ったままの手をぐっと強く引かれて、ふいをつかれてイヅルの顔をみると、皆に隠れるようにこちらに向けて笑う顔が見えた。 「なんか喋れないほど具合い悪いみたいだし。ちょっと俺、そこまで送ってくわ」 「ちょ…!ちょっと待てよイヅルハルカ!」  そんなイヅルの言葉に焦ったのは南だ。俺は俺で、イヅルに大丈夫だと言いたいのに、声にならないんだ。なんだよこれ。  ざわざわする空気の中、イヅルは俺の手をひいて、南のとなりを歩きだす。 「ほらお前、まだゲームの途中だろ?別の番号いって続けた方がいいんじゃねぇの?」 「あーー、と、えー……」  困ったような声をだしてから、南は俺のほうをみて、すまんと片手をあげた。  ……あとは自分でなんとかしてくれってことね。 「んじゃお先」 「なんかイヅルずりぃーー!」 「そんなかわいい子つれてドコ消えんだよ~」  茶化すような笑い声とともに、ひそひそと話す声。

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