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1対2⑩
◇
「〜〜〜っ」
手を繋がれてそのまま無言のまま歩いた。
会場の斉藤の家をでたはいいが、どこにいくにもわからず、問いただす勇気もなく。
なぜかイヅルも無言な上、無表情でスタスタ先に引っ張るように歩いてしまうから、余計に声をかけずらかった。
つか、よく考えたら、イヅルは本当に気づいてないんだろうか。こんな距離で、手まで握ってるのに。そんなはず、ない……よな?
そんなことを考えながら歩いていたら、少しあった段差に足をとられて転びそうになった。
「わッ!あぶな!」
「だ、大丈夫だバカ!!」
バランスをくずしてよろめく俺を、ぐっと押さえて、支えるイヅルの手。
それにあまりに焦って、焦りすぎて。思わず地声でその手を制してしまった。
「……あ」
……これで完全にバレたはず。
こんな距離で、こんな地声で。気づかないはずがない。
どうせバラさなきゃいけなかったけれど、妙なタイミングで混乱してしまう。
いや、でも。もう手を繋いだ時点でイヅルはもう気付いていたんじゃないか。
もしも気付いていないにしても、男か女かくらい、そのくらいはわかったはずだ。
いろんな思考が頭ん中をぐるぐる回る。
ゆっくり顔をあげると優しい笑顔をした瞳とぶつかった。
「イ、イヅル……!」
つい大声をあげたのは、目があったと同時にイヅルが俺の手をひっぱって歩きだしたからで。
「え、ちょ、ちょっ……」
靴はブーツのままで肩にひっかけられたのは誰のものかわからない女ものの長めのコート。
外にでてからも繋いだ手は離さずにぐいぐいとひっぱられるままについていく。
「ちょーっ!ま、待てって!」
騒ぐ俺の事なんかかまいもしない。
てか、こんな大声でいつもの調子で話しても、驚きもせずに何も言わないなんて。
もうバレてるコトは確実じゃないだろうか。
「イ、イヅルッ!あ、足いてぇって…!」
道端にある溝につっかかる足先。慣れない女性もののブーツで、ひねりすぎて足が痛い。
でも……本当はそれ以上に回りの視線がイタイ
斉藤んちのアパートは大通り沿いにある。大通りを通らずに抜けることは不可能なわけで。
「………っ」
すれ違い様、不思議そうな顔をするおばちゃん。
そりゃそうだ。こんなデカい女はなかなかいない。しかもコートに少しは隠れていても、下から除く真っ赤なスカートはただそれだけでも目をひくに違いない。さらにサンタときたもんだ。これで目立たなくなる方が難しい。
やっぱり、フツーに考えりゃこれが当たり前なんだって。
いくら化粧しようがコスプレしようが、気付かないなんてあるハズがない。
もしかしたら何人かは気付いていたのかもしれないけど、あいつら雰囲気に誤魔化されてたんだ。
普通ならこんな目立つ女装に気付かないわけがない。
……考えたら、急に恥ずかしくなった。
ジロジロ見られる視線も
ひそひそ聞こえる声も
いまだに繋がれているイヅルの手にも。
「離せよ……っ」
俺は手を振り払うように左右に動かす。でもキツく掴まれた手は離れる事はなくて。
「イヅルっ」
ほんとになんだか恥ずかしくて、ついつい切羽詰まったような情けない声がでた。
それでもその力が弱まることはなくて。
「ーーっ」
何をいっても聞き入れてくれないイヅルを恨めしげに見上げる。いつのまに振り返っていたのか、細められた視線とぶつかった。
「、イヅ……」
「恥ずかしい?」
………は?
言われた言葉にイヅルの顔を凝視した。
視線がぶつかる。
楽しそうに笑う顔。
………
……………!
ーーその顔で気付いた。
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