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1対2⑪

「イヅル!お前……ッ!わかっててやりやがったな!」 「イテ!痛たた、手ぇひねんなよ、折れる」  苦笑する顔に振り払った腕で襟元を掴む。  顔にカッと血がのぼる感じがした。きっと俺はまた真っ赤になってるに違いない。  ……だってわかったんだ。今のイヅルの顔を見たら。  どこからわかってて、面白がっていたんだろうか?少なくとも連れ出された時点ではバレバレだったはずだ。  それに、俺が恥ずかしいってわかっててこんな大通りに連れ出して。  よく考えたらもっと前に横に折れる細い道もあったはずなのに。  ……考えたらだんだんイライラしてきた。 「お前、からかうにもほどがあるぞっ!恥ずかしいことはもちろんだけど、俺がどんだけ……」 「?何」 「っ……なんでもねぇよ」 「ヒナ?」  不思議そうに首を傾げる姿。  俺がどんだけ……  どんだけお前に気付かれなくて切ない気持ちになったと思ってんだよ……!  情けなくて泣きたくなったんだ。    恥ずかしすぎて口にはできなかった。でも顔には自然と滲み出てしまったのか。  イヅルがふと立ち止まる。横に曲がる小さな路地で、手をひっぱられて、少し無言で歩いて。  振り返ったイヅルは少し困ったような笑顔をしていて。  ……なんだよ  なんでお前がそんな顔すんだよ。  顔を伏せたままでいると、また急に手をひっぱられた。 「うわっ」 「……ほんとはさ」  躓いて、とびかかるようにイヅルの胸に倒れ込む。その俺の肩にイヅルが顔を埋めてくる。 「イヅ……っ」  驚くオレにはかまいもせず、言葉をつなげるイヅル。 「ほんとはさ、軽く仕返しのつもりだったんだ」 「……は?」 「だって、ヒナがさ……勝手に今日の予定決めちまってさ……。南なんかの誘いにのってこんなパーティいくって言うし」 「それは……」  それはちょっと話の流れで……  言いかけて、気付いた。  すぐ横に見える俺の肩に埋まっている顔が、少し赤く見えるのは間違いじゃないと思う。 「……が」 「え?」 「俺が絡まれてても知らないふりとかするしさー……」 「……」  次第に声が小さくなっていく。  俺より背が高くて、肩幅も広くて、毎日筋トレしてるしっかりとしたイヅルの身体が……なんだか少し小さく見えたんだ。 「……もしかして……拗ねてんのか?」 「……」  無言になる目の前の顔に、ふてくされたようにそっぽをむく姿  こんなでかい男なのに。  ……なんでこんなに可愛くみえるんだろう。  可愛い、なんて。見た目からはぜんぜん程遠いのに。でも、心の底から、そう思ってしまった。  まわりに誰もいないのをいいことに、俺はそっとイヅルの体に両手をまわした。  それは俺がイヅルを抱き締めているような状態で。 「ヒナ……ごめん、な?」  聞こえる優しい声に俺はゆっくり首をふる。  ……なんだかイヅルがかわいくみえて仕方なかった  抱きしめて頭をなでて……キスしたかった。  ーー変な衝動。  なんて言うんだ?  ……こんな気持ちは、本当にはじめてで。 「……俺の方こそごめん。勝手にいろいろ……最近急がしそうだし、なんかお前が遠く感じて。俺の方こそお前に……お前の回りの奴ら皆に嫉妬してたんだ。だから、つい、変な事言っちゃって……」 「うん」  包み隠さず素直に伝える気になったんだ。  今の自分の気持ちの全てを。  ふいに瞳が合った。  目の前にある、イヅルの困ったような顔と。 「……ヒナは悪くない。俺がはっきりいわねぇからだな、ごめん」  反省するようなため息。 ……そうじゃない。 お前のせいじゃない。

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