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理想と現実②
笑って怒って照れて、いつものままの、そのままのイヅル。いつまでもそうあってほしい。
もし、みんながお前のことを非難しても俺だけは責めたりしない。お前を信じてやるんだ。
「ナオくん、まだ飯食ってんの?遅刻するよー」
ユウの言葉にふと瞬き。
そこでようやく目が覚めたような気がした。
……寝ぼけていたんだろうか
朝っぱらから、何を考えてんだ、俺は。
「なんか俺、疲れてんのかな……」
「アニキが悩んでる!!ありえなーい!!」
きゃははと、笑いながら行ってきますと家をでていくユウの後姿を軽く睨みながら、俺も席を立ち上がり学校へと向かった。
◇
「……ふーん。それはな日向。お前、疲れてんじゃないか?」
「やっぱそう思うか?」
教室。
HR前の朝の気だるさが残るこの時間に、お前は朝練を終えてきた南に最近の夢のことについて相談していた。
イヅルはいつものことだが時間ぎりぎりまで監督のアドバイスだとかをうけてるらしく、まだ帰ってきてはいなかった。
「それか……ストレスが貯まってるとか。あ、そういえばなんか不安なことがあるとそーゆー夢見るって姉ちゃんが言ってた!」
「へぇ。でも別に不安なことなんて……」
言いかけてふと止まる。不安なこと……なんて。
そんなふうに言われたら、なんとなく思い当たるのはひとつ。
でもそんなに思い悩んでるとか、そういうのではない。自分ではそんな感じ、まったくしないのに。
「別にそこまで気にしてるつもりねぇけどなぁ」
……俺は夢にまで影響するほど、イヅルとの関係に不安を抱いているんだろうか?
いつもとはなんだか違う雰囲気を感じたのか、南も心配したように親身になって話を聞いてくれる。
「な、日向。そういえば、井上が夢占いとか詳しいっていってたぜ?そんな気になんなら井上に聞いてみれば?」
「いや、なんかなぁ……そんなのあたるか?」
「いやいや、それがなかなかあたるっていってたぜ?木下って井上とつきあってんじゃん?告白される前の日に、夢の中で前兆があったんだって!」
「……ほんとかよ」
半ばあきれながら南の話を聞いて、うわさの井上に視線だけ移す。
井上はイヅルにキャーキャーうるさい女どもとちがって、どっちかってゆーともの静かな感じ。
正直、俺はあんま話したことない。気軽に声をかけにくいってゆーか、そんな感じ。
「……うーん。あいつ苦手なんだよな……なんとなく」
「じゃ、俺も一緒にいってやるよ」
「今?」
「今」
南に半ば強引に促され、井上の席へと近づくと、不審そうに俺達を見上げる顔。
「なぁ、井上。お前って夢とかくわしかったよな?」
「……別に。なんとなく興味あって調べたりしてるだけだけど……なんで?」
南の明るい口調とは正反対にどことなく警戒する言い方は、やっぱり俺はあまり好きじゃない。
「いや、日向が最近変な夢ばっかみるってゆーから、なんかわかるかなっておもってさーー」
「……日向君の夢?」
井上のその少しキツそうな目が俺のほうに向いて、そうして占いなんて当たるはずはないと思いながらも、ホームルームがはじまるまでの時間いっぱいまで、俺たちは井上の夢占いを聞いていた。
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