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出会いと別れ①

 春。  別れと出会いの季節だ。  少し早めに咲いた桜並木を抜けていつものように校舎へと向かう中、ところどころで見かけるしわのない、新しい制服に目を奪われる。  そこには背丈や顔つきはたいして変わらないのに、どこか初々しさが漂っている。 「ーッス!日向!!」 「ッテ!」  いつのまにかゆっくりになった歩幅に追いつくように、駆けてきた人物に後ろから頭を叩かれた。 「なんか去年を思いだすよなぁ。入学式だなんてさ!」 「なんだよ、南か」  聞きなれた声に振り向くと、そこには朝から笑顔全開の南がいて。 「南か、ってなんだよ。ボケーとして歩いてるお前の眠りを妨げるために手助けしてやったのに」 「それは余計なお世話」  手櫛で軽く髪を直しながら先に行こうとする俺の隣に並んで、笑いながらついてくる南。 「なんでよー!なんかさ、入学式っていいよな。新しい学校に新しい友達!わくわくするだろうなぁー!……なぁなぁ、ところでかわいい子とかいた?」 「知らね。自分で探せよ」  朝からテンションの高い南のノリの相手は疲れる。軽く交わしていくのが一番だ。 「俺、低血圧なんだよ」 「そうか!漬けモン食べると血圧上がるってばぁちゃんが怒られてたぞ」  医者に、と続けて南が笑う。  低血圧だ……だから朝はキツイ。なんて連想は南の頭ん中にはないらしい。  仲良く(?)校舎前まで着いた俺たちは、下駄箱前に貼られた大きな模造紙に目を奪われる。  そこにズラッと書かれているのは… 「あー!そうか、クラス替え」  南の言葉に、ああと気付く。  そういえばうちの学校は毎年クラス替えをするって去年いってたな。  ちらほらとそこに集まる人の群れの中、俺と南は端から自分の名前を探していく。 「あ、俺とイヅルハルカは1組だ」 「俺は……」  ふと聞こえた南の呟き。  その言葉に、今年もイヅルと同じクラスならいいな……なんて。  心の中で願いながら、俺の名前もないかと目を通した。  けど……  ーーない  もう一度、端から確かめたけれど。  南とイヅルのいる1組に、俺の名前はなかった。 「あ、オイ日向!お前2組じゃん」  南の声に、隣の模造紙に目をうつす。  橋本、樋口……その横に  日向尚。 「…………」 「なんだよ、日向。寂しいなぁー!」  そりゃこっちの台詞だって、南。  前のクラスで仲良かった奴らはみんな別クラスだ。新学期だっていうのに、一気にテンションもがた落ち。まぁ、友達をつくんのは嫌いじゃない。 人見知りするほうでもないけど。    けどーー……  イヅルと違うクラスか。  そう思うだけで、なんだか大きなため息をつきたい気分になった。 「ヒナ!南!」  そんな事を考えて、しばし紙に書かれた自分の名前を見てぼーっとしていると、後ろから聞き慣れた声がした。  イヅルだ。そういえば、今日は朝練も夕方も部活はないっていってた。 「ッス!あれ、なんだこの紙……」 「ヨ!イヅル!また一年よろしくな!」 「?」 「……クラス替えだってさ」  訝しそうに近寄ってくるイヅルに南が軽く返す。  俺はと言えば完全に意気消沈。ボソリと呟くとイヅルは一瞬目を丸くして、模造紙を見つめて。 俺の方をむいて言った。 「なんだよ、クラス替え?……ってマジで?聞いてねぇっつうの……なぁ?」 「ホントだよ」  嫌そうな顔をする俺たち二人を南は交互に見渡している。 「ん?なんでお前らそんな残念がってんだ?日向だって別に隣のクラスじゃん」  脳天気な南の声が腹立たしい。  それに、さっきから後ろの方できこえる声。 イヅルとクラスが一緒になったと、キャーキャー騒ぐ女子の声もうっとおしい。  大きな声でイヅルは俺と付き合ってるって教えてやりたい。  言いようのない苛立ちにはぁと大きな溜息をつく。  確かにたかが隣のクラス。  でも、多忙なイヅルと会う時間が少しでも欲しいんだ。  今だって朝から晩まで部活三昧。終われば寮にまっしぐらでなかなかゆっくり会える時間なんてない。春休み中だって、たった2、3回しか会えなかった。  新学期にやっと学校が始まって、イヅルと会える……そう思っていたのに。

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