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揺れる思い③
きっと、俺はタキに惹かれ始めている
分かっていた。
自分でも、はっきりと。
俺はいつから男が好きになったんだ?いや、そうゆうんじゃない。男にしか興味がないわけじゃない。
他にもクラスに女子はいるのに。とゆーか、男だから魅力を感じているわけじゃない。
そうじゃない。理由は一つだ。
……イヅルに。
イヅルに似ているから。
理由もこれだけはっきりわかっているんだ。ならタキに近づかなきゃいい。
これ以上タキに近づいたら、タキと一緒にいたらなんだか後ろめたくて、イヅルと顔が合わせられない。
そうなる理由もはっきりわかる。
ーータキに気持ちが動いてしまいそうで怖い。
なのに。
わかっていても、俺は、この安心感を離したくない。
「ヒナ?ゲーム、面白くない?」
「え、いや、すっげー面白いよ?でもさ、お前もよく飽きずに俺ばっか誘うよな。お前、けっこーモテるじゃん。彼女とかつくんねーの?」
「ヒナこそ。つくんねーの、彼女」
「ば…ッ。俺の話はいいじゃん。今はお前の話だろ!」
「あはは」
急に振られて言葉につまる俺を見てタキが笑う。
その間にやっていたゲームの飛行機が大クラッシュ。コンテニューのメニューを見て笑い転げる俺を見て、静かに呟く。
「ヒナって可愛いよな」
「……は?なんかいったか?」
小さく聞こえた言葉。
俺は男相手に何言ってんだというようにもう一度問い返す。普通ならソコで軽く返すんだろうけど。
「なんでもない」とかいうもんなんだろうけど。
「可愛いって言った」
タキはちがう。
イヅルと一緒。
俺の目を見て。
俺を、見て。
ドキリとするようなことを言うんだ。
「な、ななに言って……!」
「はは。また赤くなった。ほんとにかわいい」
「お前……っ、俺のことからかってバカにしてんだろ!先、行くからな!」
「あはは」
タキを置いて、とびだすようにゲーセンを後にしたのは、あまりにも恥ずかしすぎたから。
あんなに人のいる場所で、自然にあんなことを言って。
平然としているこいつと違って、俺の内心はもうおかしくなりそうなくらい混乱している。
男に……タキに「カワイイ」とバカにされているというような一言を言われただけなのに。
心臓が……呼吸が……うるさいんだ。
「ヒナ?」
「なんだよ」
だいぶゲーセンから離れた河川敷。
その細い道を歩いていたところで、タキが口を開いた。
「さっきの質問。何で彼女つくんないの?」
「は?」
……ビックリした。またその質問かよ。
「いや、だから別にいいじゃん。それよりお前の……」
「俺、わかるよ」
あたりは夕焼けに染まっていて、周りに人はいなかった。
トンボがいくつも飛んでいて、たまに鳥の群れが空を横切っていく。
そんななかで急にタキが立ち止まって、俺の正面を向いた。
さっきのこともあってか、視線が合う……それだけのことで俺の心拍はどんどん上がっていく。
「は…?なにが?」
「ヒナが彼女つくんないわけ」
タキがニコリと笑った。
イヅルと同じ、その笑みで。
ビューっと大きな風が吹いて、河川敷の伸びきった草木がザワザワと大きく揺れた。
「……え……?」
なんだかわからないけど、ドキドキしていた。
夕焼け空をバックにして、そこにたっているタキの表情はよく見えない。
光を帯びて、髪が軽く赤茶色に透けて見えて。
一言で言い表すなら……かっこよかったんだ。
真正面から見つめられると、その目を直視できない。そうして視線を少しずらした俺に聞こえた言葉。
「……イヅルと付き合ってるからでしょ?」
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