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揺れる思い④
言われた言葉に、咄嗟に顔を上げると、タキはいつもと変わらない笑みで俺を見ている。
それ以上なにをいうわけでもなく、でもオレも返す言葉もなく、沈黙がしばし続いてしまった。
もう一度ザワザワと大きな風が吹いて、周りの草木が大きく揺れると、それに反応したように、タキが言葉を発した。
「うわッ!さみー!!急に風が冷たくなったな!!」
「あ、ああ……」
なんでもないかのように言われた言葉に、とまどいながらも相槌をうつ。タキはいつもと変わらずに笑ったまま。
「さみいし、先行くか」
そう一言告げて、先を歩き出した。まるで何もなかったかのように。
俺はといえば、頭の中でひどい混乱が続いていた。
『イヅルと付き合ってるから』……?
確かにタキはそういった。
タキは俺たちのことを知ってるのか?
イヅルが話した……とか?
それともたんなる冗談か?
……わからない
タキの言うことがホントかウソか、判断がつかない。
険しい顔でタキの後をついていくと、そんな俺の様子に気づいたのか、タキが河川敷を抜けたところにある細い路地に入っていった。
「?」
「近道、してこーぜ」
そのままヤツの後を着いていく。
いつの間にか隣に並んだ長身の影。しばらく奥まですすんで、右に左に曲がったところで、ぼそりとタキが言った。
「あーー……ココどこかなーー?」
「え!?おま……!!知ってる道じゃないのかよ?」
「ん?知らない道。たまにはいいじゃん、知らない道探索するのもさ。風は少し冷たいけど、気持ちいいだろ?」
「へ……」
正直、唖然とした。
さっき言われたことばかり考えていたから、全然分からなかった。言われるがままに後をついてきたけど……
ほんとにまったく……
「あはは!なんだよ、ソレー!!ワケわかんねぇし!!」
「あははは。いいだろ、別に!こーゆーの好きなんだよ。なんか新しい発見とかあったりしてさ。楽しくね?」
子供のように目を輝かせて話してくるタキを見て、なんだかあたたかい気持ちになった。じわじわと胸の中にわく思い。
なに考えてるんだ?
チガウダロ。
つい肩を抱きたくなる思いを、寸前のところでおしとどめる。
違う。
チガウ、違うんだ……
ーータキはイヅルじゃない
なのに……
自分に言い聞かせてそのまま二人で小道をならんで歩いていく。
時折こちらを向いて笑うタキを見るたび、胸が大きく鼓動をうつ。
……なんで俺は、タキをカワイイなんて思ってるんだろう
「ヒナ?」
落ち着け。
タキが気づく。気づいてしまう。
この不自然に早まる鼓動に。
動揺する俺の心に。
「どうした、ヒナ?なんかおもしれぇ顔してる」
「は?!お、おもしれぇ顔!?」
「ほら、またしたーー!あはは」
「~~~ッ!」
こっちは真剣に悩んでいるのに。
本気で悩んでいるのがバカみたいだ。
タキの屈託のない笑みをみているとほんとにすべてがどうでもよくなってくる。全部許されている気がする。
心に少しのこった罪悪感さえも、取り払ってくれる。
「ヒナ」
「ん?」
突然タキが立ち止まった。曲がり角もない、ただの一本道。前からも後ろからも人は来ない。周りの民家はちらほらとあるだけだ。
「なんだよタキ」
「ここらへんてドコかなー?まっすぐいったらつくと思う?」
「ええ!?お前なぁ~!!」
タキの言葉に思わず早歩きをして、すぐ前にあった曲がり角目指してタキを通り過ぎようとする。
瞬間
「た……?」
……あったかい。背中が。
あったかい感触……
「タキ……?」
覆いかぶさるような重みを感じて。
それが抱きつかれたからだなんて気づくまでに数分かかった。
気付いたらタキの腕の中にいた。
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