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こころの歪み①

 いつもの日常。いつもの時間。  俺はいつも通りに席に着く。  後ろの席のタキはまだ朝練の最中だろう。  あのあと……タキとわかれた後、どの道をとおって、どうやって家についたのか。そんなことすら覚えていない。  カバンを開いて、ノートを引き出しにしまいこむ。そのままぼーっと頬杖をついて、教室にはいってくるクラスメートの姿をじっと見つめていた。  ……昨日はイヅルと会わなかった。  電話もメールもなかった。もともとそんなにマメなヤツじゃないんだ。俺から連絡しなければイヅルから連絡することなんか、めったにない。  きっと部活が忙しかったのだろう。  きっと、いつでも会えるから。  1日くらい連絡しなくても大丈夫だって。  ……その通りだ。  たった1日。  1日の話だ。  それだけ連絡がなくたって、すぐ会えるんだから。そう思うのが普通だ。  当たり前なんだよ。イヅルはいつもとかわりないし、何もおかしいことでもない。  ただ……  昨日は、イヅルと話がしたかった。  自分勝手な言い分でしかない。それなら自分から連絡すればよかったのかもしれない。  でも、自分からしたくはなかった。  ……そうじゃなくて。  そうゆうことじゃなくて。  俺は、イヅルから連絡が欲しかった。  イヅルから、「どうしてる?」って  ただそれだけでもいいから、イヅルの声が聞きたかった。    俺のことを少しでも気にかけてくれていると感じたかったんだ。 「ヒナ!おはよう」 「!」  ……ビックリした。  教室の入り口で立ち止まって、まだ時間はたっぷりあったはずなのに、気づいたらもうHR開始1分前で。  目の前にタキがいた。 「あ、タキ……おはよう」 「あはは!なんだよ、ヒナ。まだ寝ぼけてんのかよ?」 「ち、ちげーよ!ちゃんと起きてるわ、アホ!」  横の通路を通り抜けて、俺の後ろの席に着く。  その際に、すごく自然にタキの手が俺の髪に触れて。軽くクシャリと撫でるようにしてから自分の席に着いた。  ……ドキリとした。  今まで以上に、おかしいくらい。  髪を触られるのは嫌いだ。  なのに……タキになら、嫌じゃなかった。 「ウソつけ。だってお前、まだボケっとしてんじゃん」  なにもいえないまま振り向くと、タキの笑顔があった。 ……眩しい 「ボケっとしてなんかねぇよ!まだ眠ぃだけだ」 「はは。やっぱ眠ぃんじゃん!」 「そりゃ……朝っぱらから身体動かしてるお前ら運動部とはチガウっつーの」 「あはははは」  タキの笑い声。いつもの表情。  ……自然だった  すごく自然な会話。なんにもおかしいところなんてない。どこも変なところなんてない。  もう一度タキを見ると、ちょうど始業開始のベルが鳴る。  一度カバンの中のものを引き出しにしまいこんで、そうして視線に気づいたタキと目があった。    ……頬にあたる冷たい風  肩に押し付けられた感触が思い出される。 『ヒナのこと好きなんだ』 「……ッ」 「ヒナ?」  ……おかしいのは俺の頭の中だけだ  どうしたんだ?  どうしてしまったんだ、俺は……  授業が始まる。HRのチャイムが鳴って、担任教師が入ってくる。 「朝礼ーー」  静かに静まる教室。最初にプリントが配られた。なんでも冬休みの注意事項だのが書かれているらしい。小学生じゃないっつーの。そんなことを思いながら後ろのタキにプリントを回す。  頬杖をついたやる気のなさそうな顔が……目が合って、笑った。 「……」  ぱっと前を向きなおした。  バクバクと心臓が煩いくらい高鳴っていた。 「よーし。プリントみんなにまわったかー?じゃー説明するぞー」  それからの長い担任の説明が続いている間、俺は後ろからの視線が気になって仕方なかった。  優しい、包み込むような……暖かい眼差し。  ーー気にするな  タキは俺のことなんか見ちゃいない。  意識するからいけないんだ。  そうだ。気にすることはないんだ。  黒板を見つめながらずっと、頭の中では違うことを考えていた。  こんなことが前にもあった気がした。  ……あれはなんのときだったのか。  そんなことすら、もう……思い出せない。

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