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たったヒトリ①
ミンミンと聞こえる蝉の泣き声。
まだ6月に入ったばかりなのに今年は異常気象かなんなのか。
「あち……」
サンサンと照り付ける日差しも容赦がない。
まだ梅雨にも入ってないのに空は雲一つない快晴の日曜日だ。
俺は予定もなくぶらりと本屋までの道を歩いていた。
ーーイヅルと別れてから1ヶ月がたっていた
あの部室で別れてから、イヅルとは1度も会っていない。声も聞いてない。
もともと電話もメールもなかったヤツだ。会おうと、話そうと思わなければ、どんどん月日は流れるばかりで、隣のクラスだというのに面白いくらい顔を合わせていなかった。
……別にもう関係ないけど
友達という関係すら壊れてしまったかのような状態。こんなのまったく望んでなかったのに。
「……」
快晴の青空を見上げてはため息。
こんなに晴れ上がっていても心ははれない。
……仕方ない
自分が招いた結果だ。後悔しても……遅い。
「よう、ヒナ」
そんなことを考えながらふらっとついた本屋。そこに入った途端、声をかけられる。
「……タキ」
「はは!珍しいな。お前がこんなとこの本屋までくるなんて。ヒナんちってコッチじゃなかったよな?」
数冊本を抱えたタキは相変わらずの笑顔で。毎日会っているのに、こんなとこで会うとなんだか不思議な感じがする。妙に恥ずかしいというか……
「あー。でも今日暇だし、ちょっと遠出してみた」
「?だって、今日部活休みだけど……イヅルは?」
雑誌の前で立ち話。なんの気なしに尋ねられた質問に、ついドキリとしてしまう。
「……別に。なにしてるかな」
「ふーん」
タキはそれ以上何も聞かず、そうしてその話題から離れて、またいつもの笑みで話しかけてきた。
「ヒナ。なに探してるん?」
「別に。探してるもんなんてないけど、暇だから来ただけ」
「んじゃ、ちょっと待っててよ。俺、コレ買ってくるから。そしたらどっかいかねぇ?暇なんじゃん?」
「別にいいけど」
「よし。そんじゃちょっと待ってて!」
言うなりタキが走るようにしてレジに向かった。
急ぐその姿がなんだかおかしくて、後姿をみながらついつい笑ってしまう。
「お待たせ」
「ああ。つーかそんなに急がなくてもいいのに」
「はは。だって、ヒナ待たせちゃ悪いと思って」
計算してるんじゃない、満面の笑顔。
……眩しい
偽りのない、その素直な笑みが。
イヅルと別れてから、なんだか毎日がただ過ぎていくだけで。
この1年間の記憶をバカみたいに思い出していた。
1ヶ月間そんなことばかり。タキとはずっと一緒に行動してたけど、イヅルの話はしてなかったし、どんなことを話してたかも覚えてない。
だからタキの笑顔を見て、久しぶりにイヅルの顔を思い出したら、急に……寂しくなった。
「ヒナ?どうかした?」
「なんでもない」
タキの言葉が沈黙をやぶる。
俺はそんな気持ちを忘れるかのように首をふって、タキと本屋をあとにした。
◇
しばらく何も話さずに歩いて、ふと行き先もないことに気づいて立ち止まる。
「……あ、タキ。どっか行きたいとこあんのか?」
「んー別に。ヒナが行きたいとこでいい」
「俺の行きたいとこって……特になんもねぇから家に帰ろうかと思ってたくらいだけど」
「あ、じゃあ俺も一緒に行く。ヒナんち行ってみたい」
「え」
ニコリとタキがいつもの笑みで俺を見た。
さらりと自然な会話。ゆっくりと歩き始めた俺はタキの言葉に少し戸惑う。
別にただの友達だし、家に連れてきたってなにってわけじゃない。
『ヒナのこと好きなんだ』
あんなことがあったからって、もう終わった話なのに……変に意識しすぎだ。
それにうちになんて来たって、面白くもないだろうに。
「別になんもねぇけど、いいのか?」
「あーうん。ヒナんち行ってみたい」
明るい笑顔で答えられた俺は仕方なくタキをつれて家へ帰った。
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