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たったヒトリ②

 タキと話しながら歩いていると、あっという間に家についた。思った通り誰もいない。部屋の扉を開けると、後ろを着いてきたタキが身を乗り出した。 「へぇ!ここがヒナの部屋?意外と綺麗じゃん」 「意外とは余計だろ」  タキは小さく笑って、ソファ代わりにベットに腰掛ける。その間に俺は窓を開けて、外の空気を入れ替えた。  誰もいない家の中は、当然だけれども物音一つしなくて、なぜか居心地が悪かった。俺はなんとなくテレビをつけて振り向く。 「なんか飲み物持ってくるけど、何がいい?」 「なんでも」 「ん。そのへんの適当に見てていいよ」  声をかけてから階段を下りる。妹も母親も出かけているなんてどこにいったのか。  まぁ、変に気を使わなくてすむし、イヅルについでバレー部の有力選手だなんてしれたら、また煩くてかなわないからちょうどいい。  冷蔵庫の中のお茶をペットボトルごと掴んで部屋へともどる。 「タキ、お茶でいいか……って……お前、なに見てんだよ!」 「え?だってその辺のもの適当に見ていいって、ヒナが言ったんじゃん」  平然とそんなことを言うタキが手にしているものを取りもどそうと近づく。  ヤツが手にしてたのはタンスの下にしまってあった、俺の昔のアルバムだった。いったいどうしてそんなとこに目をつけたのか。その辺の雑誌でも読んでてくれればいいのに。 「だ、だからってなぁ……そんな昔のアルバムみることねぇじゃん。なんも面白くねぇって!」 「いやいや、けっこー面白いって!ヒナって、昔からヒナだったんだなーって」 「はぁ!?なんだよ、ソレ。意味わかんねぇ……とにかく返せよ、ほら!」 「ほらコレ!コレなんて、すっげーヒナって感じしねぇ?」 「~~!!返せって!!」  これはクラスマッチのバスケの時か。両手を大きく上げて、大口をあけている俺の写真を見て、たきは大笑いしている。  俺はその手に握られているアルバムを取り戻そうと必死で取り掛かるんだけど、どうにも手がとどかない。  背はそんなにさがあるわけじゃないのに、リーチの長さが違う。立ち上がって、面白半分に子供にするソレみたいに片手でアルバムを高く上げられて。  ……チクショウ  なんかすげーからかわれてるみたいだ。 「ちょっと!マジ返せってばっ!!」 「あはは。いいじゃん。なんか見られたくないのでもあんの?」 「そうじゃないけど……なんか恥ずかしいだろ!」 「そっかそっか」 「おわっ」  しばらくそんな格闘をしてたのに、理由を確認したタキは驚くほど簡単に納得して、伸ばしていた手を戻して座り込む。  タキに寄りかかるようにして、手を伸ばしていた俺はソレだけでバランスを崩した。  倒れこみそうになったところをぐいっと腕を掴まれて、タキに重なるように座り込む。 「な、なんだよ」  ーーアクシデントだ。  急に目の前にでてきたタキの顔に不覚にもドキリとしてしまう。そんな気持ちを振り払うようにすぐにたちあがろうとするも、立ち上がれない。 「?タキ……?」  よく見たらタキに腕を掴まれたままだった。驚いて顔を合わせると、タキの顔が思ったよりも近くて。   「タキ?ちょ……何……離せって……」  ドキン、ドキンと、心臓の鼓動が早く、大きくなって頭にまで響いてくる。 『俺、ヒナのこと……』  焦る。  ふいに思い出してしまったんだ。  笑顔が消えた、タキの真剣な視線で。 『好きなんだ』  ……焦る  以前に伝えられたその言葉が、頭の奥から響いてくる。 「はは。すげーいいリアクション!ごめんごめん!!返すわ、これ」  固まったまま動けなかった。重なりあって、止まったままだった視線を先にずらして、言葉を繋げたのはタキで。  静まりかえって微妙な空気を打ち破るように、自然に俺の身体を起こして手にしたアルバムを渡してくる。 「あ、おう……」 「からかってわるかった。でもやっぱヒナは面白いよな。あ、テレビ、変えてもいい?俺さ、みたい番組がこの時間からあんだよなー」 「……うん」  なんだか少し焦ったように言葉を繋げるタキは、必死で沈黙をつくらないようにしているようだ。   腰をずらして、俺から距離をおいてリモコンを手にとる。  その一つ一つの動作から、俺は目が離せなくなって。  ……オカシイ  どうして俺はこんなにタキを意識しているんだろう。テレビを回しながら、足を組みかえる姿。それをみているだけでもなんだか息が詰まる。  さっきのアレがいけない。あんな言葉を思い出してしまったから。  ……あんな顔と真剣な言葉を  俺は何も喋らず、タキの横顔を見つめ続ける。  すると、何も言わないでタキが、ゆっくり俺のほうを振り返った。 「……なんでそんなに……みてんだよ」  困ったような顔が笑って。  そっと俺の顔に手が触れる。  なんで俺は……  もっと触れてほしいなんて思ってしまっているんだろう。

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