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伝えたい思い①
外はすでに真っ暗だった。
休日だけど、ちらほらと学生の姿も見える。少し風が強く吹く中、ゆっくりと学校までの坂道を上った。
俺はタキの後を1メートルほどの距離を置いてついていく。学校に着くまでの間、タキが振り向くことも、言葉を交わすこともなかった。
でも、なんだか安心していた。『大丈夫だ』と思った。イヅルのいる寮が見えても、足がすくむことはなかった。
イヅルの部屋の前で、立ち止まったタキと目が合った。
「いい?ヒナ」
「……」
無言で頷くと、タキがドアを叩いた。静かに目を瞑る。
……この扉の向こうにイヅルがいる
この1ヶ月間、ほとんど会えなかったイヅルがいる。
イヅルに会える。
イヅルと話せる。
不思議と、緊張や不安といった感情よりも、嬉しい気持ちが大きかった。
どうしてかなんてわからないけど。隣にいるタキの言葉や、自分の気持ちを再確認して浮かび上がってきた期待。
『イヅルだってきっと待ってるから』
ーー早くイヅルと話がしたい
「イヅル、いるか?」
タキがドアをノックすると、中で小さく声が聞こえた。物音と一緒にドアが開く。
「……なんだよ、誰……タキ?」
「よお」
開かれたドアの向こうにイヅルが居た。少しだるそうに下を向きながら、かったるそうに顔を上げる。そうしてタキを見て……いや、タキの後ろにいる俺を見て、驚いたような顔をした。そのまま視線を分かりやすく逸らす。
「……ナニ?」
なんだか……怒ってるみたいだ。
久しぶりに聞くイヅルの声は、静かに耳に響いて、わけもなく胸がざわついた。
何も喋ることができない。
「何って、話あるからきたんだけど……ヒナが」
「え?!ちょっ……」
いつもとちがうイヅルの様子に戸惑う俺を気にもせず、タキが言葉の続きを笑顔で繋ぐ。それを聞いて、一層イヅルの顔が険しくなった。
どうしよう。……ヤバイ。なんていったらいいのか、全然わからない。
「まあ、俺は帰るからさ。ヒナ、頑張れな」
「え、タキ……!」
しばしの沈黙のあと、タキはそんな言葉を残してすたすたと歩き出してしまう。イヅルは何も言わないで部屋の中に入っていってしまった。
一人玄関に残された俺は、どうしたらいいかわからずに開かれたドアを見て、そうして仕方なくイヅルの部屋に入っていく。
イヅルの部屋は前とまったく変わりなかった。
強いて言えば、以前よりも少し散らかっているくらいだろうか。
無言のまま中に入ると、1室しかない部屋の中央で、床に坐っているイヅルの姿が見えた。
なんだか近寄りづらくて、しばし入り口に立ち尽くす。
「……入れよ。話あんだろ?」
「あ、うん……」
居心地の悪さを感じながらもイヅルの坐る隣に腰を下ろした。
……ほんとになんなんだ、この空気の重さは
確かに今までの経過を考えると、仕方ないとしかいいようがない。
勝手に『別れたい』なんて自分から言っておいて、それから1ヶ月も連絡をとっていないのに、いきなり話があるなんて部屋に急にきたりして。
自分でもなにしてるのかまったくわからない。
それに……テーブルに目を向けたまま、何も話さないイヅルは明らかに怒っているようにみえる。
「イヅル、あの……」
「なんか飲む?」
「あ……ああ……」
あまりの居心地の悪さにふと口を開こうとすると、イヅルの低い声にさえぎられる。
そのまま立ち上がり、冷蔵庫からミネラルウオーターを取り出してくる。
「はい」
「あ、サンキュー……」
ミネラルウォーターを受け取って、またしばしの沈黙。
……完全に話すタイミングを失った感じだ
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