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伝えたい思い②

 沈黙の続く部屋の中、喉も渇いていないのに手渡されたミネラルウォーターを何度も口に運んでしまう。ゴクリと自分の喉の音が部屋中に響いているような錯覚に陥る。  何か……  何か……話さなきゃ  頭の中ではぐるぐると話しかける言葉を捜しているのに、それがでてくることはなくて。特に暑くもない部屋の中なのに、うっすら汗が湧き出てくる。 「あのさ……元気だった?」  意を決して口を開いた。一言呟いてイヅルを見る。  ……何を言ってんだ、俺は  どうにも話しずらくて、どうでもいいような言葉が口からすべり落ちる。イヅルはそれに答えることはなく、こっちをみるわけでもなく、ただ床を見つめている。 「あの……話なんだけど……」  ぼそりと続きを述べた。まだイヅルは下を向いたままだ。 「えと……なんていうか……その……俺……」  一番言いたい言葉がなかなかでてこない。なんていったらいいのかわからない。 『もう一度やり直そう』? 『もう一回付き合ってくれ』??  なんていっても、今更虫がいい話だ。  なかなか続きがいえないまま、再びイヅルの顔を見る。いつの間にかイヅルがこっちを見ていた。真剣な瞳と視線がぶつかる。  ドクンドクンと、胸が高鳴りだした。抑えきれない気持ちがあふれ出してくる。 「俺……俺は、やっぱりお前が好きなんだ」  イヅルの目を見つめていると、自然に、一番伝えたかった言葉が滑りでてきた。 「イヅルじゃなきゃ駄目なんだ。他じゃ……駄目なんだ」  ……結局、口からでてきたのは、もっとも単純な告白だった。 『イヅルが好き』……その気持ちだけ。  もっと言わなきゃいけないこともあったはずなのに、もっと伝えておかなきゃいけない言葉もあったはずなのに……それだけがすべてになった。  伝えた瞬間、緊張の輪が一気に解けた。  一気に汗が噴出してくるような、興奮した状態になって、俺はまたイヅルを見た。  再び目が合って……なぜかイヅルの顔が不自然に笑ったのが見えた。  ………? 俺が口を開く前に、イヅルの低い声が耳に聞こえる。 「……それで?」 「?」  笑顔のイヅルに安堵感を感じつつも、なにか違和感を感じる。  ……これは本当の笑顔だろうか? 「……俺のことがまだ好き?……それで何?もう一回付き合いたいとでも言うのかよ?」 「イヅル……?」  淡々と言葉を繋げるイヅル。その顔は変わらず笑顔で俺を見つめている。  まさかイヅルの口からそんな言葉がでるなんて思いもしなくて、どんな反応をしたらいいのかわからない。どういったらいいのかわからない。 「……急に、いきなり好きじゃなくなったって、それで他にいったくせに……また戻ってきたって?」 「他?なんだよ、他って……」  口調がだんだん荒くなる。イヅルの顔は笑っているけど、いつもの笑い顔じゃない。俺は一言言葉を繋げるのに精一杯だ。  俺は……どんな言葉を期待してたんだろう。  笑って、素直に受け入れてくれるとでも思っていたのか。 「他ってなんだよ、イヅル……!俺はお前が……」  イヅルからそれ以上の言葉が聞かれなくて、俺はもう一度同じ言葉を口にした。  途端にイヅルが俺を睨んだのがわかった。そして同時に両肩に重みを感じて視界が変わる。 「……!」  あっという間にイヅルの下に組み敷かれたような体勢になった。冷たい床に押し付けられて、目の前にイヅルの顔と天井が見える。 「な、なんだよ……」 「………」  何も言わないイヅルが少し怖い。そうしてこんな状況なのに、バクバクと高鳴る心臓の鼓動に押しつぶされそうだ。  睨むようなイヅルの顔……なのに少し期待してる。 こんなになるのはイヅルだからだ。怒ってるなんてことはわかっているのに、『イヅルに触れられている』という事実……それだけでおかしくなってしまう。  からからになった口の中、ゴクリとつばを飲み込んだ。そんな緊張したような俺の顔を見て、イヅルが少し笑った。 「イヅ……?」 「ヒナは誰にでもそういうことするのかよ」  ?  目の前のイヅルの顔が笑っている。でも、やっぱり明らかに瞳の中は笑ってなくて。  ……なにを言ってるんだ、イヅルは  イヅルの言った言葉の意味が理解できない。 「誰でもいいんだな……俺じゃなくても」 「は?なに……イヅ」  そうして何も口に出来ない俺に、イヅルは吐き捨てるように口を開いて、そのままキスをした。

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