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伝えたい思い③
「……っ」
いきなりの展開に頭がついていかない。
一体何がおこったんだ?どうしてイヅルはこんなことをしてるんだ??
急に口を塞がれて、その久しぶりの感触にただ驚いた。でも奥へ奥へと食いつくように唇を塞がれて、息ができないくらい苦しい。
「……い、くるし……っ、ん……ッ」
角度を変えて、抑えつけられたままキスをされる。おしつけられるがままに、頭が床にがくんとぶつかってズキズキ痛む。
どうしようもない苦しさにイヅルの髪に指を絡ませて、どうにか離そうと試みる。
……なんなんだ、一体
『他に』?『誰にでも』ってどうゆうことだ??
なんとかそれだけでも聞き出したい。頭を右に左に捩って、イヅルの唇から逃れようと必死に動かすと、急に顔が離れていった。
「イヅ……」
「……俺ともう一回付き合いたいんだろ?こうゆうことだろ?」
「は?ちょ、マジで何いって……」
「なんで嫌がるんだよ。お前がしたかったことじゃねえの?」
頭が混乱する。何をいってるんだ、イヅルは。確かに付き合いたい、好きだとは言ったけど……こんなことだけを期待してるわけじゃないのに。
なんだかものすごく悲しい気持ちになったんだ。それになんでイヅルはこんなに怒っているんだろう?俺はそれだけのことをしてしまったんだろうか。
何か誤解されているような気がしてならない。
「それとも……」
嫌な顔で笑いながらイヅルが口を開く。
「やっぱりタキのほうがよかった?」
「え……?」
嘲るような口調で言われて、何も答えられなくなった。確かにタキにも少し惹かれていたけど。タキでイヅルを忘れられないかなんて、ずるいことを考えたりもしたけれど……
でも、タキを本気で好きだったわけじゃない。好きだと思いこんでいただけだった。
確かにタキを利用しようとした俺は駄目なヤツで
最低で。でもタキはそれでもいいって言ってくれたすげえいいやつで。
だけど俺が好きなのはやっぱりイヅルで……イヅルじゃなきゃ駄目で。
イヅルじゃなきゃ好きになれなくて……タキはその事を気づかせてくれただけだ。
「……やっぱりそうなんだろ」
そんなことを考えて、口をつぐんでいると、イヅルがぼそりと口にした。顔を見ると、つらそうな、悲しそうな……さっきとはまったく違う顔をしていた。
「ちが…………」
咄嗟に言い訳をしようとして、また唇を塞がれた。
さっきよりもさらに荒々しくて、いままでに受けたことがないようなキスだった。キスをしているというより、呼吸を塞がれて、何も話せないようにするための行為のような……
言い訳は聞きたくない。
それ以上なにも言うな。
言葉でなくて、行為でそういわれているようで、胸がズキズキと痛くなった。
「…ッん……」
混乱した頭がついていかない。
……どうする?俺は一体どうしたらいいんだ?
明らかにイヅルは誤解している。
息が出来ないほど、唇を何度も何度も深くあわせられて、頭がぼーっとしてくる。
このまま何も考えなくて、イヅルの好きなようにさせておくのが一番いいのかもしれない。けど……
『タキのほうがいいのかよ』
……誤解されたままなのは耐え切れない
「イヅ……!ま、待てって……ッ、チガ……」
両肩に力を込めて、なんとかイヅルの身体を押し返すけれど、俺とイヅルの体格の差じゃ数センチ離すのが精一杯で。
やっとの思いで離したのに、すぐにまた唇が重なった。
また、何も喋れない。弁解もできない。
今度こそ、ちゃんと離してくれたら、はっきり言おう。
ーー全部誤解だ
俺はイヅルだけが好きなんだって
『イヅルだって、きっと待ってるから』
自分の気持ちをちゃんと話せば、イヅルだってきっとわかってくれるかもしれない。
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