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伝えたい思い④☆
◇
目の前にすごく会いたかったやつがいる。そいつの表情が悲しい、苦しいと訴えかけてくる。
無理矢理キスしたり、押し倒したり……ほんとはそんなことしたくない。傷つけるようなことはしたくない。
……今までだってそうだった。
いつもヒナのことを思って、いつもヒナのことを気にかけてきた。真正面からではなくてわかりやすくはなかったかもしれないけれど、そうやって自分なりに大切に思ってきたつもりだった。
だから、ヒナにそんな顔はさせたくない……けど。
どうしても……どうしても許せなかった。
『やっぱりオマエが好きだ』
そう聞いた瞬間、頭の中が混乱したんだ。すぐに思い出されたつい数分前。タキの後ろに隠れるように立っていたヒナの姿。
じゃあ、さっきまでお前は誰と一緒にいた?
この1ヶ月間のこと、俺が何も知らないなんて思ってるのか?
……意味がわからない。なぜヒナがそんなことを言い出したのか。
この1ヶ月。ヒナのいつもとなりにはタキがいた。朝の登校後から、移動クラス、体育の時間のグラウンドだって、気がつけばふいに見てしまっている自分がいた。そうして目にしたヒナの隣にはいつもタキの姿があって。
ああ、そこは俺の場所なのにって、何度思ったかわからない。
けれど、楽しそうに笑うヒナの姿をみて、これでよかったんだと思うように努力した。二人の様子から、何かがあった雰囲気は見てればわかった。
……それでもヒナがソレを望んだなら、タキを選んだなら。それは仕方がないことだと思って、ひたすら部活に打ち込んできたのに………
『イヅルじゃなきゃ駄目なんだ。他のヤツじゃダメなんだ』
タキとの間に何があったかは知らない。けれど……こんな簡単にそんなことを言ってくるなんて
……おかしいだろ、ヒナ
それなら……それなら、どうしてお前は俺から離れていった?
何も言わずに、何も聞かずに、自分から別れたいなんていっておいて。俺の気持ちを置き去りにしておいて……そんなの自分勝手だと思わないか?
そう思った途端、止まらなかった。
驚いたようなヒナの顔を無視して、押し倒して、それでも言い訳をしようとする口に無理矢理キスをした。
……もうそれ以上、もう何も聞きたくなかった
何を言われても、今更都合のいい言い訳にしか聞こえなくて。聞くとどんどん悲しくなって、どんどん傷が深まるようで……それが怖かった。
どのくらい口付けをしていたのかわからない……けど唇を離したら、何か答えが出てきそうで。
それを聞くのが、怖い。
聞いてしまったら割りきったと思っていても、もう忘れたと思っていても……自分がまだヒナを好きだという事実を隠し切れなくなりそうで。
「…ッ、ん…」
短い、荒い呼吸が部屋中に響き渡る。
もう、唇だけじゃなく頬まで濡れていた。それをぬぐおうとふいに顔を離した瞬間、やはりヒナが顔を離した。
「イヅル…!聞いてくれ」
「………」
もう何も聞きたくないのに。
真剣な目で見つめられて、どうしたらいいのかわからなくなった。
「俺、うまくいえないけど……ほんとに、ほんとにお前のことが……」
「……ヒナ」
「ちょ……ッ、聞け……て……ッ、イヅ……!」
「ーー黙れ」
もう一度何かをつげようとしたヒナの首筋に噛み付いた。そのまま、静かに唇をおろして舌で這わせる。
……もう何も聞きたくないから
◇
「ッ……、……」
吐息と一緒に唇の端から零れ落ちる声。
……違う。こんな声を出したいんじゃないのに……
ちゃんと向き合って話をして、そうしてわかってもらいたいのに……
意を決して、もう一度イヅルに訴えかけようとしたけど、またしても途中でさえぎられて、はっきりと真正面から拒否された。
……じゃあこれ以上どうしたらいいって言うんだ?
伝えたいのに伝えられない。
こんな行為だって、イヅルにならされても嫌じゃない……けど。
ちゃんと話し合って、俺の気持ちを知ってほしいのに。
「……は…ッ、だ、イヅ……」
どんどんとイヅルの唇が落ちていく。肩口から胸を伝って、腹へ。舌の濡れた感触に身を捩る。
さっきから自分ばかりが喘いでる。イヅルは一言も言葉を発することなく行為をつづけようとしていて……それがどうしようもなく切なかった
「…、メ……だッて、イヅ……!」
イヅルの唇が、舌が、下半身に触れる。
それは完全にはたちあがってはいなかったけど、刺激を与えられれば嫌でも反応してしまう。
いつのまにかきているものを剥ぎ取られていて、俺はもう全裸に近いような状態で。でもイヅルの傷ついたような顔をみれば、本気で抵抗することも出来なくて。
「っ、やめろって……!」
か細い声で抵抗を示すことしかできなかった。
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