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伝えたい思い⑥
顔をあげると目の前にイヅルがいた。そうしてポンポンとあやすように頭を撫でられる。
そんな急に優しくされても、なんていったらいいのかわからない。
「なんだよ……」
「別に。それで?」
でも……不快じゃなかった。
イヅルの目、瞳の奥が、とても真剣なのがわかったから。
「それでって……だから……今言ったじゃん」
「うん」
「うんって……わかってんのかよ、イヅル。俺が言いたいこと……ほんとにわかったのかよ」
……もどかしい
伝わっているのか、なんなのか。
さっきよりは全然居心地がいい空気なのは確かだけど。
イヅルは一体どう思ったのか。一体今、なにをどう思っているのか。
意地もプライドも捨てて何もかもを全部さらけ出した今としては、イヅルの答えが不安でたまらない。
瞳がイヅルのソレと合う。
恥ずかしい。今更だけど、久しぶりにイヅルと向き合えている、そう思うだけで、じわじわと顔が熱くなってきた。
それを隠すように手で顔をこすっていると、イヅルの顔がいつもみたいに優しく笑ったのが見えた。
「ヒナが……ヒナが俺のことすげー好きでいてくれたんだってことはわかったよ」
「え……」
呟きと同時に暖かい腕に抱き締められた。
なんていえばいいのか、なんて返せばいいのか、頭が完全にパニックしている。
わかってくれた………それだけでもう、嬉しくてたまらない。
ツンと鼻の奥が痛くなって、目尻がアツくなった。耳元で、低くて心地いい、イヅルの声がもう一度聞こえる。
「ヒナが……ヒナが、一生懸命俺に好きっていってくれたのはすげーわかったよ」
「……イヅル」
聞いた途端、涙が滲んだ。
顔を上げて、イヅルの顔を見る。整った、でも、少し困ったような顔をしていた。
「……ごめんな、なんかどっかで……間違えた」
「イヅル……」
……こいつが好きだ。
好きで。好きで好きで!……大好きなんだ。
その気持ちだけが胸の中でいっぱいになって、言葉なんかじゃ言い表せなかった。
たった一年一緒にいただけなのに、もうイヅルは俺の中で唯一だ。
イヅルの代わりになんて誰もならないーー誰もなれない。
それだけの大きな存在。
「イヅル、好きだ」
頭をめぐる思い、伝えたい気持ちは言い切れないほどあるのに、口からでたのは馬鹿みたいに単純な一言。でも、それ以上の言葉なんてなかった。
「……うん」
「別れたいっていったときも、その後もずっと……ずっとイヅルが好きだった」
「うん」
「だから……また俺と……」
そこまで言いかけて口をつぐむ。イヅルの手が言葉をさえぎるようにゆっくりと髪を撫でたから。そうして優しい声が返ってくる。
「俺も……俺もずっとヒナが好きだった。別れたあとだって、変わらなかった。……だいたい別れたいなんて急にいわれたって、そう簡単に受け入れられねぇし、忘れられねぇよ」
「イヅル……」
いつの間にか手を握られていた。
馬鹿みたいだけど、何かを誓うように両手で覆いこむようにイヅルの手に包まれて。そこから伝わる熱で身体中に火がともったみたいだ。
「……ヒナが好きだ
だから、やり直したい」
……夢かと思ったんだ。あまりにも幸せすぎて。
顔が熱くなって視界が滲んで、流れでるものを止められなかった。
「何……泣いてんだよ、バカ」
笑うイヅルの声に、暖かい手の感触。
「泣いてなんか……ねぇよ」
それがなおさら嬉しくて、涙をとめることなんて、もうできなかった。
「ごめんな」
困ったように笑うイヅルの口から聞こえた言葉。
それに含まれたいろんな意味が胸にしみて……どうしょうもない。
「……今度は間違えない。間違いたくない。だから思ってるだけじゃなくて、伝えていきたい。……ちゃんとヒナと向き合っていきたい」
いくら思ったって全てが伝わるとは限らない。
それが例え自分の弱さをだすような恥ずかしいことだったとしても、言わなきゃ伝わらないことなんてたくさんあるから。
優しい、あったかい、そしてまっすぐなイヅルの言葉。瞬きも忘れて、穴があくほど見つめた。
そっと顔に手が触れて、瞳が重なって、自然と唇が重なった。
交じり合う体温を感じながら思う。
俺も……変わりたい。
いままでみたいに思ってるだけじゃダメなんだ。
我慢しているだけじゃダメなんだ。
少しずつでもお互いに言いたいことを言っていこう。
これから先もずっとずっと二人で一緒にいるために……
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