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心の繋がり①

 桜咲く……そんな季節がまたやってきた。  イヅルと出会って、三回目の春。  いろんな出来事があって、それを乗り越えて、迎えた高校3年目の春だ。 ◇ 「いやー!しっかし、ここへきてまた同じクラスになれるなんて、やっぱり運命ってやつだな~!」  能天気な南の声を聞きながら、クラス名簿に目をうつす。 「日向とイヅルと……あ、多岐もいるじゃん。最後の一年、楽しく過ごせそうだ、な!」 「そうだな」  一通り目を通して、名簿から目を離す。  もう目的は果たしたと、方向転換して教室へ向かおうとする俺の後ろをあわてたように南が追い掛けてきた。 「おいおいおい~!なんだよ、日向~!嬉しくねぇの?そんなしらっと答えちゃってさ。『やった!南!また同じクラスになったな!』、とかさ~!」 「あほか」  落ち着いた俺の態度がよっぽどお気に召さなかったのか、つまらなそうに南が話す。それに軽く笑って返して、南と歩幅を合わせて教室へ向かった。  前だったら……去年までの俺だったらイヅルと同じクラスってだけで、ばかみたいに喜んでいただろう。 その逆も然り。違うクラスだったらものすごく落ち込んでいたにちがいない。  でも…… 「まぁ、ふつーに嬉しいよ。みんな一緒のクラスなんて、楽しくなりそうだよな」 「だろ~?」  満足そうに南が笑う。  ……違うんだ。うれしくないわけじゃない。嬉しくないわけがない。  でもクラスがどうとか、そんなことは別にたいしたことじゃない。  今ではただ、この気持ちは変わらない。そんな簡単に終わらない。ーーそう信じてるから。  1年、1年。1日、1日が過ぎていくたびに、自分の気持ちに変化がおこる。  ここまでいろいろあったけど、わかりあえるようになってから、何かが変わった。  それは目に見えるものじゃないけど、なによりも心強いもの。  いつでもどこでも、つながっている……そんな自信ともいえる、強い心。  信じているから。だから、大丈夫だって思える。怖くない。 「あ~……それにしても俺らももう3年かぁ……!日向って進路どうすんの?」 「まだ決めてねぇよ」 「だと思った。俺も~!なんかイマイチ実感わかねぇんだよな~。受験とかいわれても、まだ一年あるし~」 「だよな」  高校3年ともなれば、当然まとわりついてくるのは進路。今まで無関心だった俺の周りも、徐々に受験特有の雰囲気になってきている。まったく考えてないわけじゃないんだけど…… 「それより南は?」 「終わらない?俺は……優秀な成績のおかげで推薦で楽々か、有能なバレーの才能で引き抜きかなぁ?」  南は自信満々に言いながら、なーんてと小さく呟いて、困ったように俺を見る。 「だったらいいんだけどさ~。優秀な成績は多岐だし、有能な才能はイヅルハルカだよな~……俺は……いくとこないかも……」  だんだん語尾が小さくなる。自分から切り出した話題なのに、明らかにへこんでる。  まったくコイツときたら……一息ため息をついて、いつのまにかたどり着いていた教室のドアを開けた。 「そんなことねぇって。てか自分で聞いといて落ち込むなよな~」 「日向~!そうだよな!!」  仕方なくフォローすると、安心するように相づちをうつ南をみて、呆れながら足をすすめる。 「てか日向、イヅルハルカの進路聞いてねぇの?お前ら仲良いからてっきり知ってるかと思った」 「……イヅルとは進路とか話さねぇし……」 「ふーん?それより日向!俺たちでもどっか入れるとこあるよな?!」 「俺たちってゆーな!!」  言い争いながら教室の中に入ると、黒板に名簿順で並ぶように書かれているのが目に入る。  それを見ながら南がボソッと呟いた。 「……イヅルハルカはもうどこの推薦受けるか決まってるんだろうな~」 「……」  考えてないんじゃない。知りたくないわけじゃない。  ……考えることをやめているだけ。  逃げている……そういわれればそうかもしれない。やっぱり不安にならないなんて嘘かもしれない。離れていてもつながっている……なんて自己満足。そんなこと思っていても、卒業後のことなんか……先のことなんか知らない。  どう考えても答えは同じ。イヅルと自分は違うから。進むだろう道も目指すべき方向も……  だからどうなるかなんてわからない。  それは……不安……だということなんだろうか。

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