108 / 120
心の繋がり②
そうして一通りの儀式がおわる。
新しい制服を着た新入生の姿をみると、懐かしいような、ちょっとうらやましいような……そんな感じがした。
ぞろぞろと体育館をでていく列を見つめていると、後ろから頭に軽い衝撃。
「!」
「お前、そんなにぼーっとしてるとつまづくぞ、ヒナ」
頭に乗せられた手を軽くはらい、振り向くとそこにいるのはタキだった。またしてもオレとタキは出席番号続きだ。
「大丈夫だって。頭さわんなよ、セットが乱れる」
「あはは!セットなんかしてねーだろ」
「やっと終わったなぁ~!」
笑いながら教室までの距離を歩いていると、後ろから南が参入してくる。
「南ぃ、列乱すなよなぁ~!お前は一番後ろの方だろ」
「まあまあ日向、そう堅い事言うなよ~」
俺の言葉に軽く笑いながら、南はタキに話を続ける。
「なあなあ。タキ!お前、進路ってどうすんの?」
「え~?3年の始まりにもうその質問かよ!」
「いや、もうっつーか、遅すぎなくらいだろ、普通。周りみんな決まってんぞ」
「お前の周りは、だろ。俺の周りは落ちついたもんだよ」
「…つか南、入学早々、なんでこだわんだよ」
軽く笑うタキに、興味深そうに質問を続ける南を見て、俺は半分呆れ顔だ。
「日向~!今朝も言ったけど、俺はさ、切実なのよ」
大げさに悩んでるような顔をつくって、ガバリと南が肩を寄せる。
んなこといっても、南はいうほど悩んじゃいないんだ。コイツの言うことはすべて半分くらいが本当と思っといたほうがいい。今まで心配してなんどバカをみたことか……
中学からだから相当な数だ。
……まあ、もっともそこまで気付かなかった俺もバカなんだけど
またか、とゆうかわりに、肩にのせられた腕を軽く払ってみたが、南は全くお構い無しだ。
「……タキ、真面目に答えることねぇぞ。コイツはいっつも大袈裟だからな」
「なんだよ、日向~!友達だろ俺ら!」
「あはは。知ってる、知ってる!」
「タキまで!!」
なんだかんだ言われても南は笑ってる。やはりいうほどのダメージはうけてないようだ。
「や、冗談だけどさ。てか、俺、進路なんてまだ全然考えてねぇよ」
「ホントか!?でも、タキくらい頭良ければ多少のいい大学はいけそうだしな……今から悩まなくてもいいのか……」
う~んと再び南の唸り声が聞こえてくる。
そうして、ふと気づいたようにタキの方を向いて一言。
「あ、そういやタキは知ってるか?イヅルハルカの進路!」
「え?イヅル?……ヒナ、しらねぇの?」
「え……ああ、まぁ……」
自然と寄せられた視線がなぜか気まずくて、軽く俯く。
「日向もしらねって言うから聞いたんだって」
「ふーん……そっか。てかヒナがしらねぇのに俺が知るわけないじゃん」
「?そうなのか?……そっか。そうだよなー!」
意味深なタキの言葉に南は一瞬首を傾げたけど、弁解するまえにそのまま勝手に納得していた。
……こいつのこうゆう単純なとこは羨ましいかぎりだ。
そんな話をしているといつの間にか教室について、その話は一旦中断した。
だけど、そのあとのHR中も、俺の頭の片隅にはずっとそのことが残っていた。
◇
学校が終わった帰り道。イヅルたちは部活のミーティングへと参加中で、俺は特にやることもなく、1人家路をたどっていた。
とぼとぼと歩いていると、頭の中にはやはり昼間の話題が浮かび上がる。
進路なんて……なんで決めなきゃいけないんだろう。
「将来、か」
小さく呟いて、空を見上げた。
目標だとか……夢だとか、そんなのどうでもいいのに。
今が楽しいし、今が、幸せだ。それじゃあ駄目なんだろうか。
このまま、このときが続いてくれれば……それだけでいいのに。
先のことなんて考えたくない。
簡単な結論にふっと笑いがでる。ワガママな子供のような自分の考えに。
……そもそも。
俺のやりたいことってなんだ?
これ以上勉強したいとは思わない。このままの学力で簡単に目指せる大学にいく……
でも、それからどうするんだ?
大学四年間ただなんとなく過ごして、なんとなく就職した会社で平凡なサラリーマンになって、それで……
幸せな家庭を持つ。
「……」
頭に浮かびあがった一般的な平凡な未来を考えて、ふと立ち止まった。
『幸せな家庭』
それがきっと最終形態なんだろう。
でも………本当にそれが俺の思い描く未来なんだろうか?
ーー違う。
俺の望む未来は……あいつの……イヅルの隣だ。
他には何も望まない。
肩書きや社会的地位なんてどうでもいい。
生きていくために最低限の生活ができて、イヅルの隣にいられればそれでいい。それだけ。
たったそれだけのことだ。
……だけど
「……」
綺麗な夕焼け空とは反対に暗く濁る心。ずっしりと、気持ちは泥水に浸ったように重く沈んでいる。
……やはりそれは許されないことなのだろうか。
ともだちにシェアしよう!