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心の繋がり③

「ただいまー」  家に着いて玄関をあがると、見慣れない男物の靴に目がとまった。 「あ、おかえり。今日は早かったんだね」 「あー……うん。てか、コレ」  でてきた母親に指先でその靴を指すと、意味深な笑みを浮かべた顔。 「あー……それね、ユウの彼氏だってー」 「え!」 「びっくりよねー!あの子に彼氏ができるなんて!」  手招きに従い、自室のある二階へあがらず、とりあえず居間に腰をおろす。  ユウは中学時代からスポーツ一色で彼氏とか、男の浮いた話なんて聞いたこともなかった。だから余計にビックリだ。  ……あんなのでもいいって、もの好きがいるもんだ  嬉そうに話しを続ける母に相槌をうつ。 「……それにしても、高校入学そうそうかよ。一体いつ知り合ったんだ?」 「なに、ナオ、気になるの?なんだかんだ言ってもやっぱりお兄ちゃんなのねー」 「ちが……!別にどうでもいいけどさ。ただ早ぇなと思って」 「あ、なんかね中学の同級生よ。言われてみればあの子見たことあるもの!それにね、すごく素敵なのよー!」 「何が」  からかうような調子に反応してしまった自分に腹がたつ。テンションが上がってきたような話し方もウザい。わざと冷たく聞いたのに、母はたいして気にもしてないようにそのまま話を続けている。 「ユウのことが好きで頑張って同じ高校に入学したんだって!男の子にそこまで思われて、あの子も幸せよねー」 「ふーん……」 「なに、ナオ。そんな機嫌悪そうに……あ、やっぱり嫉妬してんの?」 「~~っ、だから違うって!」  これ以上ここにいても、からかわれるだけだ。未だ話し続ける母親を無視して、逃げるようにカバンを抱え、自室へとあがっていった。 ◇  翌朝。いつものように学校へ向かう途中、ふと肩を叩かれる。 「ナーオ!」 「ダイチ」  振り向くと私服姿のダイチがいた。 「あれ?お前、今日学校は?」 「創立記念日で休みだって。ナオ、ヒマ?」 「は?おま……これ見て、暇だと思うか?」  制服を摘んで呆れたように尋ねると、明るく笑う顔。 「だよなー!じゃあ、サボろうぜ」 「お前なぁ……」  軽く言われた言葉にため息のような声が出た。気合を入れて登校そうそう、サボりを持ちかけられるってどうなのよ。やる気がそがれると同時に、当然つきあってくれるだろ?といわんばかりの笑みに呆れてしまう。 「こんな早くいってもどうせハルカは部活だろ?少しくらいいいじゃん」 「授業があんだろ」 「1時間くらいならいいじゃん」  あくまで、軽い調子のダイチのノリ。昨日まで真剣に悩んでたこととかがアホらしくなってくる。 「じゃあ、1時間だけな」 ◇  ダイチに誘われるがままにゲーセンに付き合い、対戦した。1時間のつもりだったのに、結局夢中になって、気づけば2時間以上すでに経過していた。 受験生だのなんだのって、話してるのにこれだよ。 「あーー!久しぶりに楽しかったなぁ」 「ん?最近きてねぇの?」  学校へ向かう道。もう時間はすでに昼時だ。 「んー、そういうわけじゃねぇけど」 「なに、ナオ。なんか悩みでもあんの?言ってみ、言ってみ!」  明らかに興味本位に聞いてくるダイチに俺は軽く笑って流す。どうみてもこれは面白がっているだけだ。こいつに話したところで何の解決にもならない。 「なんだよー。これでも俺だって相談事とか受けるのよ?ハルカにとか」 「……イヅルに?イヅルの相談事?」 「あ、ナオの悩みってやっぱハルカのこと?」  呟いた言葉にやっぱりといったように笑って返されて。  ……なんだかうまく乗せられてしまったみたいだ。  仕方なく学校までの道を少し遠回りしながら、俺はダイチに考えていたことを話してみた。 「ふーん……進路ねぇ~。まだいんじゃねぇの?だって3年あがったばっかじゃん。」 「でもさぁ、どーせ考えなきゃいけないことだろ?」 「まあ、そうだけどさー」  ダイチはいまいちピンとこないような顔で首を傾げた。 「んじゃ、ダイチはなんも考えてないのかよ?ギター、まだ続けんの?」 「ん、俺?俺はさー、やっぱ歌うの好きだから、とりあえずは歌うのはやめない。でも別にデビューしたいとかそうゆうのじゃねぇから、とりあえず歌って、バイトして生活して、飽きたらまたそんときに考える……かなー?」 「なんか……お前っていいよな」 「ん?そうか?」 「うん。ダイチみたいに考えたら楽なんだろうなー」  遠回りしてついた河川敷。  並んで歩きながら、ふとため息をついた。  ダイチみたいにやりたいことをやりたいままに自由にやれるのは憧れる。……自分にはそんな度胸も勇気もないから。  そもそも、俺にはまだやりたいことなんてないし、想像もつかないけれど。でも、なくしたくないものならある。  前だったら、それでもよかった。  今。今が大切だから。今がよければ後はそのとき考えたらいいからって。  けれど、今のオレはそうはいかない。 全てなくなったらまた考える……そんなふうには思えない。  無くしてしまうのが怖い。  離してしまうのが怖い。  ……だから。間違えられないから、悩んでしまう。

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