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不確かな約束⑦

◇  ピーー!!  大きな音とともに聞こえた歓声。軽く手をあげながらローテーションをしてチームメイトと喜びあう。  試合は2セット目の中盤。  今日の相手は西日本を拠点にある大きな会社のチームで、うちとはライバル関係にある企業だ。口にはしないがスポンサーがこだわっている試合には違いなく、できれば勝利を収めたいところである。しかしリーグ戦でも好成績をおさめているかなりの強豪でもあり、1セット目はなんとか勝ち取ったものの、なかなか一筋縄ではいかずに苦戦を強いられていた。 「イヅル!さっきのポイントはよかったぞ!」 「はい!」 「とにかくどんどん繋げて攻めろ!高野と岸で左右に攻めていけ。イヅル、お前もバックからいけ!」 「はい!」 「とにかく今が決め所だ!弱気になるなよ!!流れを掴め!」 「はい!!」  円陣の一番端。  タオルで汗を拭きながら、監督の言葉に大きく声をあげる。 「よし!それじゃあいくぞ!」 「はい!!」  気合いをいれた言葉が終わり、皆で軽く声をかけあってコートにもどろうとすると軽く肩を叩かれる。振り返ればそこには監督の顔。 『期待してるぞ』  目がそういっている。  今までに幾度となく与えられたことのある、無言のプレッシャー。ずしりと肩に感じた重みを深呼吸して落ち着ける。  2セット目、16対14。  サーブは俺からだ。  ゆっくりとサーブラインに立ち、受け取ったボールの感触を確かめて、もう一度深呼吸をした。  負けられない試合。  タイム明けの中盤、得点差は二点だ。ここで決めれば一気に勢いづくだろう。  ……今が一番の勝負時だ。  ーー俺が、流れをつくる  気持ちを落ち着けるために、ふと目を閉じた。  ピーッ  笛が鳴る。  息を吐いて、ボールの感触をもう一度確かめる。  その瞬間、ざわざわした会場が一瞬だけ静かになった気がしたんだ。 「ヒナ……?」  はっと辺りを見渡した。地方の会場とはいえ、観客席にはたくさんのギャラリーがいる。視界に入るのは見知らぬ顔ばかりで。ましてや眩しいライトの下からの光景では輪郭程度しかわからない。  でも……  ふぅ、と小さく息を吐く。そうして高くボールを頭上に放って相手コートに打ち込んだ。  大きな笛の音が鳴る。  バックライン上を狙ったコースが見事に決まった。 「ナイスサーブ!!」 「いいぞー!」  一斉に、わっと歓声が沸き上がった。近寄るチームメイトに軽く手で合図しながらサーブラインにもどる途中、観客席に向かって顔をあげた。  ーーイヅル 「ヒナ」  ……やっぱり。  小さく名前を呟いた。  顔は見えない。どこにいるかなんてわからないけれど。  でも、それは確かに聞こえた気がする。  何百人もいる中。歓声が響き渡るホールの中。  その一言だけが頭に響いた。  サーブラインに立ち、両手でボールの感触を確かめながら軽く笑った。昔よく言われたヒナの言葉が頭の中によみがえる。 『お前は俺のHEROだから』  ……ちがう  お前がーーお前が、俺のHEROなんだよ。  どんな大きな歓声より  大勢の人の声援より  お前の声が  お前の姿が  お前1人の存在が……俺を支えてくれるんだ。  ……だから俺はーー  笛の音が鳴る。再び静かになったホール内。  高くボールをあげてライトの影に重なった瞬間、リズムをあわせてジャンプする。  お前が納得する、その時がくるまで……  ーー信じて、待ってるから。

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