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第2話

高瀬晃(たかせ あきら)。28歳独身。 祖父が会長を務める会社で社長秘書をしている。大学4年の春、それまでにしていた就活でいくつか面接も受けていたが、突然会長命令により、今の職場での就職に決まってしまった。 幼い俺たち兄弟を育ててくれた恩もあるので、そこに反対することなかった。 「社長、お迎えに上がりました。」 車走らせること数十分先にある社長の住んでいるマンションへ向かい、入り口にあるモニター付インターホンに部屋番号を入力する。ここは俺のマンションと違い、いわゆる高級タワーマンションだ。 「ふわぁぁ、晃か。入って来いよ。」 毎朝思うが、この朝の弱さ・・・・・・ホントどうにかならないものだろうか。仮にも大企業の社長なんだから。 そう言われ、開けられたエントランスの入り口を抜け、エレベーターに乗る。 15階のボタンを押し、部屋のまえに辿り着いたらインターホンを鳴らす。 「おはようござ、」 「開いてるから入っていいよ。」 俺が言い終えるより前に鍵の開く音が聴こえる。 いや、一応警戒しろよ。まあここにもモニターが付いているからなんだろうけど。 カチャとドアを開け、リビングへ向かうと、部屋着のまま、気怠そうにソファで寝転ぶ社長の姿。 会社では、イケメン・仕事ができる・高身長と何やらハイスペックな男性像で社内の女性社員を無自覚で落としているが、普段はほぼ何もしない、だらしない男だ。 「社長、朝ごはんは食べましたか?」 「んー? 食べてない。」 あくびをしながら答える社長にいつも通り、簡単に朝食を作る。 俺は社長秘書であり、社長宅執事ではないっつーの。 「ご飯作ってる間に、顔を洗ってきて下さい。」 いつまでもソファでダラダラとしている社長にそう告げると、やや寝癖のついた頭をかきながら、洗面所へ向かう。 執事というより、最早ーーー母親感しかない。 ダイニングテーブルに朝食をセットし終えると先程からよりは幾分かマシになった社長が戻ってきた。 「いつも思うけど、お前、男なのがもったいねえな。」 いや、いつも何てことを思ってるんだよ。 「いただきます。」 手をパンと合わせながら、ご飯を食べる。俺はその間に洗濯物をし、軽く部屋を掃除する。 本当にこの男は何もしない。ひとり暮らし歴は長いので、できないわけではないんだろうけど、敢えてしない。 だって、面倒だし。それにーーー・・・・・・。 お前がやってくれるんだろう? 社長秘書になったその日の夜に告げられた。 俺のことを何だと思ってるんだかわからないけれど、すでに4年たった今ではこれが当たり前になっている。 朝食を食べている最中に寝癖のついた髪を整える。ほんの少し明るめの髪は柔らかくてフワフワしていて意外とすんなり整ってくれる。 「なあ、今日の予定は?」 さっき見た予定を時間ごとに告げる。 「19時からは会長との会食です。」 最後にそう言うと、げっ、という心底嫌そうな声が聞こえた。 「それって、」 「まあ、例の話でしょうね。」 「ーーー・・・・・・はあ、うぜえ。それ、こと、」 「断るのは却下です。」 そう答えると再度長いため息をついた。 スーツに着替えると、先程までだらしなかった男が社内での評判通りの良い男へと変貌する。

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