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第29話
「お前はずっと俺のそばにいればいいんだよ。」
自信なさげに震えるように言う兄貴が珍しくて、どういう意味でそれを言ってるのかわからないけれど、心臓がドキドキと速くて音聞かれそうなのが怖い。
「俺はどこにも行かねえし。今でも兄貴のそばにいるだろ。」
そう言うと、泣きそうなのが困惑気味に変わって、はぁと短いため息をついたかと思うと、さっきとは比べ物にならないくらい優しい口づけをされた。
俺の上から退いて俺を立ち上がらせて、真正面で向き合う体勢。
「・・・・・・そういうことじゃねえんだけど、今はまだそれでいいや。」
そう言うと立ち上がって、夕飯まで時間あるし出かけようかということになった。
外に出ると周りも古くからの温泉宿がいくつかあって、古風な道が広がる。
和風な店が建ち並ぶ。その店を適当に見ながら夕飯前だけど昼飯がてら試食もしながら歩く。
「晃、晃。」
兄貴が和菓子の店の中から手招きをする。
「これ食べてみ。うまいから。」
四角い形をした、ピンク色と白の2色のゼリーに桜の花びらがゼリーの中に入っていて、見た目だけでもすごく綺麗。
試食しても良いって言われたから、一つ食べてみると。
「レモン?さっぱりしてて今の時期にぴったりだな。てっきり桜っぽい味だと思ったけどこれは美味い。」
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