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第30話
子供の頃、俺たちはお祖母様の友人でお茶の先生をやっている人に茶道を習ったことがある。
兄貴は正座するのとか静かすぎる空間で丁寧な所作とか難なくこなしていたけれど、すぐに飽きてしまったらしく、数ヶ月で辞めたらしい。
俺は10歳のときに初めて茶道を習って、美味しい和菓子と上手くお茶を点てられたときに先生とお祖母様がすごく褒めてくれて、その頃は若干何でもできる兄貴に劣等感みたいなものを抱きはじめてたから、兄貴がすぐに飽きてしまったものを俺はかなり真剣に取り組んだ。
茶道は高校卒業するまで続け、今でもたまにやったりはしている。
その影響なのか和菓子についてもある程度詳しいし好きな方だ。
店の中にある和菓子を色々眺めているとあまりにも夢中になりすぎてて兄貴の存在を忘れていた。
「あれ?兄さん?」
どうでもいいことだけど、俺は仕事のときは『社長』、お祖父様やお祖母様がいたりプライベートで外にいるときは『兄さん』、完全に素のときは『兄貴』と無意識で呼び方が変わっているらしい。
店内を見渡すと入り口付近の他のお客さんの邪魔にならないあたりで腹立つくらい優しい顔で笑いながら立っていた。
本当に同じ男として悔しいくらい整いすぎててムカつく。
俺が近づくと二人組の若い女性が兄貴に近づく。
何やら色々話しかけていて何となく、そこへ行けずに立ち止まってしまった。
少し近づいて聞こえてきた声にまた立ち止まる。
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