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第54話 好きな人なんて知らない

目を覚ますと兄貴が俺の頭を撫でながら誰かと話している。 何となく目を開けれずにいると、触れていた手が離れる。 ーーー・・・・・・離れないで。 咄嗟にそう思って起き上がろうとした。 がーーー・・・・・・。 『そういう訳で俺は今後一切結婚も見合いもしません。もし何かのパーティーやらで女性パートナーが必要であれば晃に女装でもさせて連れて行きますんで。これからはそのことに関して一切関わらないで下さい。』 ーーー・・・・・・女装? 俺に、女装でもさせて? あまりにもびっくりするワードが出てきてガバっと勢い良く起き上がる。 「あ、あ、兄貴!?今、何て?」 「あ・・・・・・あー、えと、はい。一緒にいます。わかりました。ちょっと待ってて下さい。」 兄貴はそう言うと自分のスマホを俺に差し出す。 「お祖母様。晃に代われだって。」 寝起きと突然の意味不明なワードやらで頭が混乱気味なのに、お祖母様と話せだって? 「あー、もしもし。晃ですけど、」 『ちょっと晃さん。貴方は知ってるの?』 「何をですか?」 『透さんが今後は結婚もお見合いもしたくないって言うのよ。好きな人ができた、とか。貴方はその相手を知っているの?』 「・・・・・・え?」 『やっぱり相手の方は、その・・・・・・男性、なのかしら?』 「あー、いや。すみません。俺は知らないです。」 『そう。ーーーーーーーー。』 頭の中を鈍器か何かで殴られたかのような衝撃だ。 心臓が・・・・・・いつもとは違ってドキドキ、バクバクしている。 その後もお祖母様が何かを話していたが俺は上の空で返事をしていた。 『晃さん?聞いているの?』 「えっ!?あ、は、はい。」 『透さんは一度決めたら何がなんでもそれを貫く子だから、もう結婚の話はしないでおくわ。だから万が一のときは貴方にも協力してもらうから、よろしくね。』 「あー、はい。」 そう返事するとお祖母様は電話を切った。 兄貴の好きな人なんてーーー・・・・・・。 ーーー・・・・・・・・・知らない。

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