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第55話

「お祖母様、何だって?」 「えっ?あー、何だっけ。」 兄貴にスマホを返しながらボッーとした頭で考える。 「あー、そうだ、兄貴にはもう結婚の話はしないでおくって。それから・・・・・・。」 そうか、兄貴、好きな人いるのか。 つかーーー・・・・・・好きな人いるなら、何で俺にあんなこと? 意味、わかんねえーーー・・・・・・。 「それから?」 兄貴の視線を感じて振り向く。 窓に肘をついて寄りかかるような体勢でじっーと見てくる。 そんな見られるとーーー・・・・・・困る。 俺は視線を逸した。 「そ、それから・・・・・・。」 お祖母様に言われたことをそのまま言えばいい。 たったこれだけのことなのに、俺は言えずにいる。 もし言って、兄貴が認めてしまったら、俺はーーー・・・・・・。 「ま、万が一のときは俺にも協力するようにって。」 違う。言いたいのはこれじゃない。 いや、女装とか言ってたしこれも言いたいことなんだけど。 「まあ、そうだね。有能な俺の秘書として協力よろしくね?」 ふいに手が伸びてきて頭を触ろうとする。 俺はほぼ無意識でその手を払ってしまった。 「・・・・・・それって俺に女装させるってこと?」 声が震える気がする。 頭の中は混乱中で淡々と思っているのかわからない言葉が出てくる。 兄貴の方を向けなくてただ下を向いていた。 「・・・・・・まあどうしても女性パートナーが必要だってなったら、お願いするかも。その時は悪いけどお願いね。」 払われたことを気にしてもないのか、また頭に手が触れる。 好きな奴いるくせにそんな風に触れないでほしい。 今度は無意識ではなく触れられた手を払って、兄貴の方を見る。 「・・・・・・俺じゃ無理だって・・・・・・いくら女装したって、男だってバレるだろうし・・・・・・兄弟だってバレるって・・・・・・だから・・・・・・だから、」 くそ・・・・・・視界が歪む。 こんなことで泣きたくなんてないのに。大の大人が情けねえ。 「だから、女性のパートナー探せって?」 目元に触れる指先は優しいのにーーー・・・・・・。 放たれた声は冷たくて、ビクっとしてしまった。

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