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第68話

「また後で迎えにくるからその時までに身なり整えておけよ。」 「晃。」 「ん?何、」 ちゅっと可愛らしい音を立てた触れるだけのキス。 「いってらっしゃい。」 「行ってきます・・・・・・って違う!!後で迎えにくるから用意しとけよ。また来るのに行ってらっしゃいって何だよ!?」 「恋人できたら一度やってみたかったんだよね。」 「あっそ。とにかく用意しとけよ。」 ニコニコ笑いながら手を振る兄貴に念を押しながらマンションを出た。 車に乗り、ふとさっきの光景を思い出してしまった。 玄関先で見送られてキスされるって・・・・・・し、し、新婚か!?ってこんなこと一瞬でも考えてしまう俺のがきっとおかしい。 アイツ、あんなこと恥ずかしげもなくよくやるな・・・・・・誰かにもしたことあるんだろうか。 モヤっと知りもしない過去の恋人にすら嫉妬を覚える。 アホか、俺は。抱かれたからって考えることまでも女々しくならなくていいのに。 ため息一つついて気合いを入れ直して自宅へ向かった。 たった3日だけど久しぶりに帰ったような気がする自宅は何となく淋しい。 時計をチラっと見るとまだ5時半だった。 溜まっている洗濯をして、軽く朝ごはんを作る。 ちゃんとしとけって言ったけどきっと兄貴のことだから、何もしてないだろうな。まさか二度寝はしてないだろうけど。 してない・・・・・・よな? 無意識で確認のために兄貴に電話をかけていた。 『あれ?晃、どうした?』 「いや・・・・・・。」 後で家出る前に電話すれば良かったのに何でこんな時間にかけてるんだ、俺は。 『ちょっと離れただけで淋しくなっちゃった?』 クスクス悪戯っ子のように笑う兄貴。 「なっ、ち、ちが・・・・・・ッ!」 『なんだ、残念。俺はお前が帰っちゃって淋しいけどなあ。』 きっと口を尖らせて年甲斐なく可愛いフリして言ってるのが想像ついて、トクンと何故か胸が高鳴る。 「・・・・・・あっそう。俺は兄貴がまさか二度寝してないだろうなって思っただけ、だし。」 『ははは、本当に晃は素直じゃないな。』 「それは、悪かったな。」 『んー?別に、そういうお前も好きだよ。意地っ張りで素直じゃなくて焦ると早口になるところとか。けど、えっちのときは素直で可愛いよね。』 兄貴がとんでもないことを言い出して、俺は思わず皿を落としそうになった。 あっぶね・・・・・・。 「だから、可愛いわけねえだろうが。朝から何てこと言ってんだよ。」 『晃は昔からずっと可愛いよ。可愛すぎて、ガキのお前に欲情しかけたことあるし。』 「ごほっ、ごほッ、ごほっ、は、はぁぁ!?」 『男にしか性欲とか恋愛感情わかないって気づいた中学の時だけどな。お前があまりにも真っ直ぐに俺を好きだって言うから、さすがに俺だって小学生の弟相手にヤバイとは思ったけど。』 「・・・・・・ふは、ヤバすぎ。俺のこと好きすぎだろ。」 兄貴のあまりにも衝撃的な告白に思わず笑ってしまう。 『好きだよ。ガキの頃からずっと、お前が好きだよ、晃。』 もうすぐ仕事だってのに、甘く耳元で囁かれるようなトーンで言うから今すぐ触れてほしくなるーーー・・・・・・。 「せ、洗濯とか終わったから今からソッチ行くんで、待っててください。」 これ以上、プライベートでの兄貴の声を聞いていたら俺がおかしくなりそうだから、慌てて通話を切った。

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