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第74話

羽瀬さんが研修を始めてから一週間。 初日に二人が名前で呼び合う関係だとはわかったけれど、兄貴に聞いても羽瀬さんに聞いてもどのような関係か教えてもらえない。 兄貴に至っては言いたくないとまで言われてしまった。 訳がわからないのに、念押しするかのように、「アイツとは絶対にプライベートで関わらないで。」と言われた。 「高瀬さん、今日の歓迎会なんですけど、来れますか?」 社長と羽瀬さんと社内を歩いていたら、同じ秘書課の内山さんに声をかけられた。 「出欠の確認取れてないのが高瀬さんだけなんですよ。」 「あー、そうですね・・・・・・。」 この一週間、兄貴と羽瀬さんの関係が気になっていてすっかりと忘れてた。 俺は社長をチラっと見た。 別に羽瀬さんと二人っきりじゃないし、秘書課の皆もいるからいいよな? 明日は仕事休みだし。 「俺は大丈夫だよ。」 声には出してないが目でそう訴えられたような気がしたから、「行けます。」と返事をした。 「そういえば、羽瀬さん。大倉さんが呼んでましたよ。」 「わかりました。」 羽瀬さんが大倉さんの元へ行き、社長と二人で社長室へと戻る。 「・・・・・・コーヒー。」 ソファに座るなりコーヒーを要望する社長は気のせいでなければちょっと怒ってるような声音。 いつも通りにコーヒーを入れてソファの前のテーブルに置く。 俺は自分の仕事をするためにデスクへ向かおうとしたらーーー・・・・・・。 「うわぁぁっッ! な、何!?」 腕を思いっきり引っ張られ、ソファに倒れ込む。 「ちょ、いきなり何・・・・・・し、社長? ここ、会社ですが?」 休みの間に見慣れた、兄貴に押し倒されるという光景。 けれど、今はそんな甘いもんじゃなくて、職場のソファに秘書を組み敷く社長は何となく冷たい目をしている。 「歓迎会だから、今回は行くのを許してやる。けれどもし羽瀬と二人っきりになったりしたら許さねえから、覚えておいて。」 冷たい目に冷たい声・・・・・・いや、これは何かに怯えている? 羽瀬さんは仕事覚えるのも早いし、最初こそ社長を見て砕けた感じではあったが、その後はきちんと立場をわきまえているし、何をそんなに敵視しているのかわからない。 二人の感じからしてプライベートで知り合いなのは確かなんだろうけど。 牽制するなら、どういう意味なのか教えてくれりゃいいのに。

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