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第75話 淋しい①

「社長、羽瀬さんと何かあったんですか?」 両手で顔を包み込み、じっと目を見た。 社長の、兄貴の目が一瞬だけ揺れてふいっと逸らされた。 俺の両手の上から重ねるように手を置き、そのままそっと外される。 俺から離れて腕を掴み起こし、身なりを整える。 「・・・・・・帰ったら話す。」 そう言うとデスクへ戻り、その日にやらなければならない仕事を黙々とこなしていく。 こんな真面目に仕事する社長が珍しすぎて、いつもなら『疲れた』『早く帰りたい』だのブツブツ文句言いながらのんびりと書類をチェックするのに、今日は一言も言わない。 何を怒ってんのか知らないけど不愉快ーーー・・・・・・いや、これは淋しい? 先週までは不真面目な社長が鬱陶しかったはずなのに、それが好きな人に変わっただけで、こんな気持ちになるのかよ。 「書類届けに行ってきます。」 「・・・・・・ん。」 何だよ。それだけかよ。いつもなら、いつもならーーー・・・・・・もう、いいや。 無性にイライラしながらドアを勢い良く開けると、目の前に驚いたように立っている羽瀬さん。 「すみません。大丈夫でしたか?」 「私は大丈夫です。それは秘書課に届ける書類ですか?」 「はい。羽瀬さんはデスクに置いてある書類などをお願いします。」 「わかりました。」 社長が冷たく当たるせいか、羽瀬さんのおっとりした話し方や雰囲気に少しだけ癒やされる。 おかげでイライラしていたのはどこかへ吹き飛んでしまった。 「失礼します。書類お持ちしました。」 「高瀬さん。今日は帰り、どうされます?」 「社長を家までお送りするので、その後に行きますよ。ですので、少し遅れて参加します。」 「わかりました。」 大倉さんに書類を渡し、社長室へ戻る。 『透は相変わらずブラコンだねぇ。』 ドアをノックしようとして中から聞こえてきた声に思わず手が止まってしまった。 この声、羽瀬さん? 兄貴がブラコンって、そんな素振りあったか? というか、今はそりゃあ兄弟には変わらないけど、それだけじゃないし、ブラコンとは違うよな? 『うるせえ。別にいいだろ。だから、お前も今更余計なこと考えるなよ。アイツに手出したら承知しねえからな。』 ーーー・・・・・・バカじゃねえの。会社で何て事を言ってんだよ。 冷たい感じだったから、俺がいないところだけど、こういう事を聞けたのは嬉しい。   その後は社内会議や来客を迎えたりなどしながらあっという間に終業時刻となった。 「私は社長を家まで送ってから行きますので羽瀬さんは先に向かっていて下さい。」 「わかりました。社長、お疲れさまでした。」 「お疲れ様。」 羽瀬さんを見送り二人きりになるとシーンと音がするくらいの無言が続く。 これって喧嘩になるんだろうか・・・・・・? 旅行の帰り、お祖母様からの電話の後みたいで何か少し嫌だーーー・・・・・・。 羽瀬さんとは普通に話すくせに、俺が何をしたってんだよ。 兄貴のバカやろーーー・・・・・・。 「・・・・・・晃、帰るんだろ。」 「へっ? あ、うん・・・・・・はい。」 「・・・・・・大丈夫か?」 今日一日素っ気なかったくせにーーー。 今さら、そんな優しい雰囲気出すなんてずりぃんだよ。 大丈夫なわけねぇじゃん。それくらい兄貴兼彼氏ならわかれよ。 何てことは言いづらくて・・・・・・平気なフリをする。 ◇◇◇◇◇◇ プライベートが忙しくて毎日更新できなくなってしまいすみません(; ˙ ꒳ ˙ ;) これからも更新ペース落ちるかもですがお付き合い下されば嬉しいです!

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