10 / 87
第二章・3
「辛い目に、遭って来たのだな」
哲哉の胸の中で眠ってしまった玲衣は、あどけない表情をしている。
これだけ見ると、普通の少年なのだが。
だが、普通と言ってしまうには美しすぎた。
悲しい過去が、その美しさを掘り起こしてきたかのようだ。
それでも、美しい体の内には涙の海が広がっているに違いない。
哲哉は、玲衣を起こさないように、パジャマを着せると、そっと抱き上げた。
そのまま部屋を出て、彼の部屋へその軽い身を運んだ。
玲衣の部屋には、池崎が控えていた。
「哲哉さま」
「彼を、寝室へ」
「夜伽は、終わられたのですか?」
「今夜は、中止だ」
ドアを開ける池崎をよけ、哲哉は寝室へ入った。
ベッドに大切に玲衣を横たえ、掛布をその体に被せてやった。
「おやすみ、玲衣」
ともだちにシェアしよう!