13 / 87
第二章・6
朝、起きた場所が自分の部屋であることに、玲衣は驚いた。
「哲哉さまが、運んでくださったんだよ」
「僕、失礼なことを……」
夜伽を命じられたのに、寝入ってしまうとは。
自分の体を両腕で抱き、身震いする玲衣に、池崎が穏やかに声を掛けた。
「大丈夫。哲哉さまは、怒ってはいないよ」
「そうでしょうか」
「逆に、褒めてたよ。ほら、あのカンバス。あの白を見通したことを伝えたんだ」
『彼をイメージして描いたものだったが。この白に気づくとはな』
そう、哲哉は感心していたという。
「だから、気にしないで。もうすぐ朝食だよ」
「ありがとうございます。でも僕、何だか食欲が無くて」
「本当? それはいけない」
体温計で熱を測ってみると、38℃以上ある。
大変だ、と池崎は医師の手配をし、玲衣の汗に湿ったパジャマを変えた。
「僕は哲哉さまの朝食を準備しなきゃならないから、少しここを出るけど」
絶対に動かず、ちゃんと寝ているように。
「すぐにお医者様が来てくださるから」
「すみません」
池崎が寝室から出て行ってしまうと、急に静かになった。
ともだちにシェアしよう!