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第二章・7
「静かな部屋。あったかいお布団」
はぁ、と玲衣は小さな溜息をついた。
今までの暮らしとは、大違いだ。
「親切な池崎さん。そして……」
哲哉さま。
『哲哉さまが、運んでくださったんだよ』
池崎の言葉が、思い出された。
大切な初夜の晩に眠ってしまった僕を、部屋まで運んでくれた、哲哉さま。
辛かった過去を話すと、抱きしめてくださった。
『今日からここが、君の家だ。何も心配しなくていい』
あの言葉に、心の、体の張りが一気に緩んだのだ。
嬉しかった。
玲衣は、もう哲哉のことを怖いとは思わなくなっていた。
「本当は、心の優しい人なんだ」
寝室には、緑豊かな観葉植物が置いてある。
これも、あの白いカンバスと同じく、玲衣のために置いてくれたに違いない。
「早くよくなって、またモデルさせていただかなきゃ」
玲衣は、鼻まで掛布を被った。
温かなベッドは、哲哉のぬくもりのようだった。
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