16 / 87

第三章・2

 書斎に戻り、パソコンを点ける前に哲哉は指を組んだ。 「何か、おかしい」  新しい玩具として、招いたはずの玲衣。  それがどうだ。  彼を心配し、寝室へ行き、医師の診断をこの耳で聞く。 「そのようなことは、池崎に任せておけばいいものを」  顔を上げ、壁を見る。  そこには、黒く塗りつぶされたカンバスがあった。  玲衣の部屋にある白いものと相反するような、黒だ。  ただこちらは、漆黒で塗りつぶされている。  真の、闇だ。  哲哉は、両親を失った後に、この絵を描いた。  父母の見送りもそこそこに湧いてきた、親戚たち。  皆、その莫大な遺産を目当てに、哲哉に群がって来たのだ。 『大学を卒業するまで、後見人になってあげよう』 『実は私は、亡くなったお母さんの従妹なんです』 『利回りのいい銀行を紹介してあげるから、そこへ預金しなさい』  そんな欲に我を忘れた大人たちに揉まれ、哲哉は人を信じることを辞めた。  心は、闇色に塗りつぶされた。  屋敷にいた使用人たちにも、ほとんど暇を出した。  今では池崎と、10名程度の人間が勤めるだけだ。

ともだちにシェアしよう!