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第三章・2
書斎に戻り、パソコンを点ける前に哲哉は指を組んだ。
「何か、おかしい」
新しい玩具として、招いたはずの玲衣。
それがどうだ。
彼を心配し、寝室へ行き、医師の診断をこの耳で聞く。
「そのようなことは、池崎に任せておけばいいものを」
顔を上げ、壁を見る。
そこには、黒く塗りつぶされたカンバスがあった。
玲衣の部屋にある白いものと相反するような、黒だ。
ただこちらは、漆黒で塗りつぶされている。
真の、闇だ。
哲哉は、両親を失った後に、この絵を描いた。
父母の見送りもそこそこに湧いてきた、親戚たち。
皆、その莫大な遺産を目当てに、哲哉に群がって来たのだ。
『大学を卒業するまで、後見人になってあげよう』
『実は私は、亡くなったお母さんの従妹なんです』
『利回りのいい銀行を紹介してあげるから、そこへ預金しなさい』
そんな欲に我を忘れた大人たちに揉まれ、哲哉は人を信じることを辞めた。
心は、闇色に塗りつぶされた。
屋敷にいた使用人たちにも、ほとんど暇を出した。
今では池崎と、10名程度の人間が勤めるだけだ。
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