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第三章・4
まだ熱が続いてふらつく玲衣に、池崎は朝食を用意した。
ワゴンに乗せて寝室へ運ぶと、起き上がって服に着替える途中の彼がいる。
「寝てなきゃ、ダメだよ!」
「でも、そんな重篤な病気じゃないみたいですし」
「起き出して倒れたりすると、僕が哲哉さまに叱られちゃうよ」
玲衣は、池崎にパジャマに着替えさせられ、もう一度ベッドに逆戻りだ。
トレイに乗せられた料理を食べながら、玲衣は池崎に訊いてみた。
「哲哉さん、僕のこと何かおっしゃってましたか?」
「心配しておられたよ」
「……」
「どうしたの?」
「本当かなぁ、って思って」
池崎は、笑顔で答えた。
「本当だとも。君は、これまでの、どのモデルより哲哉さまに気に入られてるよ」
「そうですか?」
「そうとも」
それを聞くと、少し食べる勢いのついた玲衣だ。
きちんと食事を摂って、早く治らなきゃ。
そんな風に、思えて来た。
一生懸命に食事を摂る玲衣を見て、池崎は微笑ましかった。
(哲哉さまは、この子に惹かれてらっしゃる)
おそらく、心に傷を負った者同士のシンパシーを感じるのだろう。
だがそれは、哲哉と玲衣、どちらにも言わなかった。
やがて、互いに思い合うようになることを、願った。
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