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第四章・6

 その晩、玲衣は胸をときめかせながら哲哉のドアをノックした。 「玲衣か?」 「はい」 「入りなさい」  そっと重いドアを開くと、奥のリビングにガウン姿の哲哉がソファに掛けていた。  テーブルには、ジンではなくコニャック。  芳醇な香りは、哲哉を少し酔わせていた。 「寝室へ」 「はい」  立ち上がると、哲哉は玲衣を伴い歩いた。  その肩に触れると、わずかだが震えている。 「怖いか?」 「いいえ」  どうしようもない震えが、玲衣を襲っていた。  怖いのではない。  かといって、楽しみなのでもない。  ただ、体が熱を帯び震える。  初めての感覚に、玲衣はとまどっていた。

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