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第五章・4
疲れてそのまま寝入ってしまった玲衣を、哲哉は丹念に拭き清めた。
パジャマを着せても、起きる気配がない。
「苛めすぎたかな」
そっと、その前髪を掻き上げて、額にキスを落とした。
ベッドサイドの端末に手を伸ばし、池崎を呼ぼうとしたが、やめた。
「朝まで、私の傍にいてくれるか?」
すやすやと、安らかな寝息が聞こえるだけだ。
「返事は必ず、と言ったはずだが」
微笑み、哲哉は横になった。
ふと気づいたが、空調が強い。
少し、肌寒いくらいだ。
エアコンのリモコンに手を伸ばしかけ、やはりやめた。
掛布を玲衣の肩まで上げ、その身を胸に抱いた。
ひな鳥を守るように、温かく包んだ。
ひたひたと打ち寄せる、ぬくもりの心地。
その正体を、哲哉はまだ信じることができなかった。
信じることができなかった、が。
「まさか私は、玲衣を。この子を愛している、のか?」
両親を失い、親類に翻弄され、固く閉ざされたこの心が、解きほぐれてきている。
それはまさしく、玲衣のせいだろう。
自分の気持ちに戸惑い、哲哉は瞼を閉じた。
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