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第五章・5

 夢の中、玲衣は楽しかった。  心地よい空間にいるのは、哲哉。  笑っている。  優しく。  木立がざわめき、玲衣はその胸に飛び込んだ。 「好きです。哲哉さま」 「私も君が好きだ、玲衣」  抱き合い、風を受けた。  心が、いっぱいになった、その時。 「あ、れ……?」 「お目覚めか? 寝坊助くん」 「何だ、夢か……」 「いい夢を、見ていたようだな」  え?  あ? 「な、なぜ、哲哉さまが僕の隣に!?」 「昨夜のことは忘れたか? 薄情だな」  昨夜。  ああ、昨夜僕は。 (哲哉さまに、愛してもらったんだ)  初めての、感覚だった。  愛の行為を、生まれて初めて素敵だと思えたのだ。

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