32 / 87
第五章・5
夢の中、玲衣は楽しかった。
心地よい空間にいるのは、哲哉。
笑っている。
優しく。
木立がざわめき、玲衣はその胸に飛び込んだ。
「好きです。哲哉さま」
「私も君が好きだ、玲衣」
抱き合い、風を受けた。
心が、いっぱいになった、その時。
「あ、れ……?」
「お目覚めか? 寝坊助くん」
「何だ、夢か……」
「いい夢を、見ていたようだな」
え?
あ?
「な、なぜ、哲哉さまが僕の隣に!?」
「昨夜のことは忘れたか? 薄情だな」
昨夜。
ああ、昨夜僕は。
(哲哉さまに、愛してもらったんだ)
初めての、感覚だった。
愛の行為を、生まれて初めて素敵だと思えたのだ。
ともだちにシェアしよう!