33 / 87
第五章・6
「あの、忘れていたわけではないんです。ごめんなさい」
「冗談だ。気にするな」
(可愛い寝言も、聞けたことだし)
『好きです。哲哉さま』
無防備な精神状態で口にした、恋の呪文。
玲衣は、とんだ魔法使いだ。
(そんなことを言われれば、こちらもその気になってしまうじゃないか)
照れる気持ちを隠すため、哲哉は玲衣の掛布をぱっと剥いだ。
「さあ、支度をするんだ。朝食の席へ、行くぞ」
「は、はい」
気付けば、パジャマを着ている。
(僕は昨夜、あのまま寝ちゃったはずなのに)
これは、哲哉が着せてくれたに違いない。
「哲哉さま、パジャマありがとうございます」
「ん? ああ、大したことじゃない」
私はシャワーを浴びるので、君も部屋へ戻りなさい。
そう言って哲哉は、バスルームへ消えた。
「僕も、シャワーを浴びてさっぱりしなきゃ」
与えられた部屋へ戻ると、ドアの前に池崎が待っていた。
ともだちにシェアしよう!