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第六章・2

(しかし、玲衣と共に出かけることは楽しそうだ)  もっと言えば、出かけて楽しそうにしている玲衣を、見たい。 「いいだろう。出かけよう、外へ」 「本当ですか!?」 「ちょうど、ホタルの季節だ。それを、観に行こう」 「ありがとうございます!」  僕、ホタルを見たことがありません、と胸をワクワクさせながら話す玲衣は、それだけで見ていて楽しい。 「今度、雨が上がった晩に、出かけるとしよう」 「はい!」  雨はまだ降り続いていたが、玲衣の心はすっかり晴れた。  哲哉もまた、その心に新しいかすかな光を感じていた。 (モデルと外出など、初めてだ)  緩む口元を何とか引き締め、考える。 (あくまでもこれは、玲衣を逃がさないようにするためだ)  自分と一緒ならば、まず逃げ出すことはできない。  そう、哲哉は考えた。  ただ、心のどこかから声がする。 『そんな方便、いいかげん捨ててしまえ』 『惹かれているんだろう? 玲衣に』 『認めてしまえば、楽になるぞ?』 「哲哉さま、どうかされましたか?」 「ん? いや、どうしてだ」 「絵筆が、動いていらっしゃいません」 「うん。まぁ、今日はここまでにしよう」  静かに哲哉は、スケッチブックを閉じた。

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