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第六章・3
雨上がりの風のない、暖かい夜。
哲哉は玲衣を伴い、ホタルを観に出かけた。
池崎にジャガーを運転させ、郊外の川を目指す。
「何だか、明るくなってきました」
「おかしいな。この辺りには、住宅はなかったはずだが」
以前は無かった、広い駐車場までできている。
そこに車を停めて少し歩くと、哲哉は驚いて声を失った。
大勢の、人、人、人。
屋台の灯りに、土産物の出店。
そこはすっかり、祭りの雰囲気なのだ。
「そんな馬鹿な」
「哲哉さま、ここにホタルがいるんですか?」
「昔、私が初等部の頃に、両親と一緒に来た場所だ」
まさか、こんなに様変わりしているなんて。
「池崎、君はこのことを知っていたな?」
「はい。存じ上げておりました」
「なら、なぜ私に教えない」
「せっかくの、お二人のデートですから」
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