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第六章・5
たこ焼き、ヨーヨー釣り、くじ引き、金魚すくい……。
どれも魅力的だ。
(全部、って言ったら、欲張りだよね)
哲哉の財力をもってすれば、全屋台を廻ることも可能だろう。
ただ、今夜はホタルを観に来たのだ。
屋台にかまけていては、いけない気持ちが、玲衣にはあった。
(哲哉さまの大切な思い出を、これ以上壊さないようにしなくちゃ)
そこで玲衣は、一番近くにあった金魚すくいを指さした。
「僕、金魚を捕まえてみたいです」
「いいだろう」
薄い紙を貼ったポイを渡され、玲衣はしゃがんだ。
「どの子がいいかな。あ、あの白い金魚!」
白に丹頂の緋が入った小さな金魚を、玲衣は狙った。
あと少し、といったところで逃げられ、ポイは水を吸ってしまった。
これでは、水につけるとすぐに破れてしまいそうだ。
諦めるか、と思ったところに、意外な玲衣の言葉が吐かれた。
「哲哉さま。あの子、捕まえられますか?」
「私、か?」
ポイを手渡され、哲哉は仕方なく先ほどの金魚を観察した。
ゆらゆらと、水面に顔を上げたところを、素早くすくう。
「やったぁ!」
「獲ったぞ!」
お目当ての金魚は、見事に哲哉の持つポイに上げられた。
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