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第六章・6
「ありがとうございます。哲哉さま」
「金魚すくい、か。なかなか面白かったぞ」
玲衣は、金魚の入ったビニール袋を目の高さまで持ってきて、にっこり笑った。
あの後、哲哉はもう一匹黒出目金を獲ってくれたのだ。
可愛い二匹の金魚に、玲衣は満足だった。
金魚すくいの話などしながら歩いていると、道がだんだん暗くなってきた。
足元を照らす提灯が等間隔に並んでいるが、目が慣れるのに少し時間がかかった。
やがて道は開け、水音が聞こえて来た。
「あ、哲哉さま。そこ、ホタルですか!?」
「ぅん? ああ、そうだ」
すうっ、と小さな光が、玲衣の前を横切った。
そのホタルに導かれるように、二人は歩いた。
そして、目の前に美しく輝くホタルの群舞を見た。
「うわ……あ……」
「美しいな」
大きく光り、小さく灯り。
追い、追われ。
無数のホタルが、二人を祝福した。
周囲には、哲哉と玲衣の他にも人はいた。
しかし哲哉は、そのようなことはもう、気にならなくなっていた。
(ああ、あの時と同じだ)
愛する両親と共に見た、ホタル。
今は、愛する玲衣と共に……。
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