43 / 87
第七章・2
えぐみのない、爽やかな緑の味。
「素朴だが、身に染みわたるようだ」
玲衣が丹精込めて育てたとなると、ありがたみも増す。
「美味しいよ、玲衣」
「ありがとうございます!」
フレッシュサラダはあまり口にしない哲哉だが、今朝のサラダは完食した。
(私のために、園芸を)
そう思うと、なぜだか頬も緩む。
そんな哲哉に、池崎が話しかけた。
「哲哉さま。これは玲衣くんに、御礼をしなくてはなりませんね」
「礼?」
「そうですよ。彼は、本当に一生懸命に野菜を育てましたから」
そうか、と哲哉は指を組んだ。
「玲衣、何か欲しいものはあるか?」
玲衣は、慌てて両手を横に振った。
「そんな。僕はただ、哲哉さまに何か差し上げたくて」
「遠慮するな。何でも言うといい」
池崎も、しきりにうなずいて促している。
じゃあ……。
「じゃあ。僕、また哲哉さまとお出かけしたいです」
「外出か。ホタルの時期は、もう過ぎたぞ」
「ホタルじゃなくって、ただ街を歩いてみたいんです。一緒に」
何とも無欲な、玲衣の返事だった。
ともだちにシェアしよう!