44 / 87

第七章・3

 玲衣はただ、哲哉と共に並んで歩きたかっただけなのだ。  何をねだるでもなく、何を欲するでもなく。 (恋人みたいに、寄り添って歩けたら素敵だろうな)  そう思っての、ことだった。  一方の哲哉は、やけに深刻にとらえていた。  街中を歩く、というと。 (人ごみに出る、ということだ)  人と触れ合うことが苦手な哲哉は、それだけで気が重くなる。  しかも。 (玲衣を伴うとなると、周囲の目が気になるところだ)  可愛い玲衣に、色目を使う輩が出て来るかもしれない。 「玲衣。外出はするが、条件がある」 「何でしょう」 「目的を、決めるんだ。ただ漫然と歩くのは、苦痛だ」 「あ。ごめんなさい……」  ホタルを観に出掛けた時に、哲哉が外出嫌いなことは知ったはずだ。 (それを、僕ったら!)  失敗した、と思った。  しかし哲哉は、笑みを浮かべた。 「駄目だ、と言ってるわけじゃない。どこか一軒、店を選べ。そこへ、行こう」 「はい。では、本屋さんに行きたいです」 「本屋、か」  いいだろう、と返事をし、哲哉は外出の日時を決めた。

ともだちにシェアしよう!