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第七章・3
玲衣はただ、哲哉と共に並んで歩きたかっただけなのだ。
何をねだるでもなく、何を欲するでもなく。
(恋人みたいに、寄り添って歩けたら素敵だろうな)
そう思っての、ことだった。
一方の哲哉は、やけに深刻にとらえていた。
街中を歩く、というと。
(人ごみに出る、ということだ)
人と触れ合うことが苦手な哲哉は、それだけで気が重くなる。
しかも。
(玲衣を伴うとなると、周囲の目が気になるところだ)
可愛い玲衣に、色目を使う輩が出て来るかもしれない。
「玲衣。外出はするが、条件がある」
「何でしょう」
「目的を、決めるんだ。ただ漫然と歩くのは、苦痛だ」
「あ。ごめんなさい……」
ホタルを観に出掛けた時に、哲哉が外出嫌いなことは知ったはずだ。
(それを、僕ったら!)
失敗した、と思った。
しかし哲哉は、笑みを浮かべた。
「駄目だ、と言ってるわけじゃない。どこか一軒、店を選べ。そこへ、行こう」
「はい。では、本屋さんに行きたいです」
「本屋、か」
いいだろう、と返事をし、哲哉は外出の日時を決めた。
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