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第七章・5

 黒がいい、と言い張る哲哉をなだめ、池崎はネイビーのサマーニットを用意した。 「こちらの方が、お顔映りがいいですから」 「そういうものか」  趣味の範疇を越えた美術を嗜んでいるのに、ファッションには疎い哲哉だ。  しぶしぶネイビーを身に着けたが、池崎の真意を、用意のできた玲衣を見て知った。  彼もまた、ネイビーのシャツを身に着けていたのだ。 (これではまるで……!) (哲哉さまと、ペアルック!?)  シャツの形は違うが、色で二人は結ばれている。 「では、行ってらっしゃい!」  池崎だけが、満面の笑みだった。  無言でジャガーを運転する哲哉を、玲衣はちらちらと見ていた。 (哲哉さま、怒ってらっしゃらないかなぁ)  普段から無口な哲哉だが、玲衣は心が冷える思いだった。  そんな哲哉が、前を向いて運転しながら彼に言った。 「玲衣は、その。嫌ではないか? 服装が」 「え?」 「私と揃いのカラーで、恥ずかしくはないか?」 「いいえ! むしろ……」 「むしろ?」 「う、嬉しい、です」  そうか、と信号で止まった哲哉だったが、内心ほっとしていた。

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