53 / 87

第八章・4

 通話を切り、玲衣の父はにやりと笑った。 「すぐに、俺の手に戻すからな」  父親は、哲哉からの1000万円で、借金を完済した。  その手元には、まだ高額の金が残った。  やり直すには、充分な金額だったが、彼はそうしなかった。  ギャンブル好きの悪癖が抜けないこの男は、そのほとんどを遊び使ってしまったのだ。 「玲衣がいれば、また稼げる」  父親は、玲衣にまた体を売らせるつもりでいるのだ。  傍らの、ぬるい発泡酒を飲み干し、口をぬぐった。 「可愛い玲衣。金の卵を産むニワトリだよ、お前は」  そして、その体。  息子の肢体に溺れているのは、この男も同様だった。  早く、この手に触れたい。  突っ込んで、泣かせたい。  父と呼ぶにはあまりにも非道な、醜悪な男だ。  しばらく後、再びスマホが鳴った。 『白石さん。玲衣の居場所が解りました。地方名士の、神森邸に車が入っていきました』 「御大層な場所に、住んでいるな」 『今後、どうしましょうか』 「監視を続けてくれ。連れだせそうなら、そうしてくれ」 『解りました』  玲衣に、毒牙が忍び寄っていた。

ともだちにシェアしよう!