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第八章・6
シャワーを浴びてさっぱりした後、玲衣は哲哉の部屋に呼び出されていた。
「夕食前なのに。まさか、今から僕を求めたりはなさらないよね」
室内の哲哉はリビングのソファに掛け、玲衣を見ると少し腰を浮かせた。
待っていた、と言わんばかりだ。
「まあ、掛けなさい」
「はい」
「……」
「?」
沈黙が、続く。
「いや、呼び出したのは他でもない」
「はい」
「キスを、しよう」
「え?」
哲哉らしくなく、少し目を逸らしながら言うには。
「さっきカフェで、玲衣のティーを飲んだだろう」
「はい。哲哉さまは、美味しいと言ってくださいました」
「その、ストローが、同じだった」
「あ……」
気付いてたんだ!
哲哉さまは、間接キスのこと!
「え、あ、その。ごめんなさい。違うストローを、もらってくるべきでしたよね」
「いや。少し照れたが、嫌ではなかった」
「哲哉さま」
だから今度は。
「ちゃんと、唇を合わせたい」
哲哉は、そっと玲衣に近づいた。
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