59 / 87

第九章・3

「今夜は、海で見つけたリゾートホテルに泊まることにする」 『哲哉さま、本当によろしいのですか!?』 「心配するな。幸い、スウィートルームが一つ空いていた」 『それは、良うございました。では、お気をつけて』 「うん」  哲哉が、決まったスケジュール通りではなく、行き当たりばったりの行動をとる。  それが、池崎には嬉しかった。  何でも四角四面にしか捉えられなかった主が、柔軟性を取り戻したのだ。 「玲衣くんの、おかげだな」  通話を切り、池崎は自然と笑顔を作った。  海に行きたい、と言い出したのも玲衣だ。 「海は、哲哉さまの思い出の場所でもあるから心配したけど」  両親と共に、哲哉は海へ出かけていた。  そんな海へ行くと、かえって辛いのではないか、と心配したが。 「玲衣くんと一緒なら、大丈夫だ」  池崎は、哲哉と玲衣の間に、強い信頼関係が築かれていることを確信していた。

ともだちにシェアしよう!